第22泳

 人魚の街は、この広い海にいくつあるか知れない。この街の光源は、突き抜けると思うほど高い天井にびっしり張った、発光するサンゴである。かりんとうほどの大きさで棒状に伸びて、蛍光灯のように光る。

 天井から街へ向かって、氷柱のようにまとまっておりている箇所が無数にあり、特に明るく仕事をしている。このサンゴは外洋では発光することがないのだが、人魚の街で特別なエサをもらい、明かりの役目にあずかっている。


 壺の頭から、大量の埃が何度も、それは豪快に出る。それは数秒の間を置いて、舞台に散る紙吹雪のように派手に煌めきはじめ、ゆっくりと上方に吸い寄せられていく。二度、三度と壺が埃を吐き出すたびに、舞い上がった煌めきは集まって、薄い雲みたいに天井のサンゴを覆った。これこそが、サンゴを発光させる特別なエサなのだ。

 給餌の時間が始まった。


 キラキラするだけでも十分な見ごたえがある埃だが、こうして集まり雲をつくると、なんとも言えないやさしい光に変身する。街に並ぶヘンテコな家々からやれやれと出てくる人魚、窓を少し開けて外を見る人魚、それぞれがこの変化を楽しんでいるのだった。


 薄い雲を突き抜けて、子どもの人魚たちがぽろぽろと降りてきた。サンゴのミルクを飲んで、少しでも体を大きくしようと上空まで通いつめている子どもの人魚たちである。

 煌めく埃が不定期に出るたび、サンゴが栄養を吸収してしまうまで待たなくてはならない。


「これを見るのも、久しぶりだ」

 見上げながら、目を細めた。グリンも、天井のサンゴから栄養をもらって育ったひとりだった。


 サンゴは炊き出しとして、人魚の子どもたちのミルクにもなる、いくらか粘つきのある液体を出す。それは甘く、栄養を豊富に含んでいて、小さな人魚の子たちを、外界を泳げる大きさに成長させるほどの働きをする。

 そのようなわけで、街に子どもの人魚が多いのは当然だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る