第23泳
「空の落とし物たち! おかえり!」
サンゴの給餌の見物人たちが、方々で声をかけている。子どもたちが埃の雲を突き抜けて戻ってくるから、「空の落とし物」なんて呼ばれているのだ。
グリンたちのそばにも、茶色の巻き髪が頭にぴったりくっついた、気の強そうな少女の人魚が降りてきた。両脇に、自分よりも小さな、人間の子でいうと一、二歳ほどの小さな人魚を二人抱えている。子守をしていたのに給餌が始まって、ぷりぷりと怒っていた。
「ごはんの時間だって、関係ないよな! おまえらだって早く大きくなりたいのに! ひどいもんだ!」
抱えられている赤ちゃんの人魚は、姉貴分の優雅な泳ぎをテーマパークのように感じて、二人とも楽しそうに笑い声を立て、手を叩いたりしている。
「レモンさん、今日は大奮発だね。やる気万端って感じ」
どこかから、そんな風に話す人魚の声がした。壺の中にはレモンという名前のイソギンチャクが住んでいて、この街の明かり供給に勤しんでいるのだ。
先ほどの、子守をしていた子どもの人魚が、ユキのサラサラなびく黄金色の髪に見とれていた。目をぱっちり開けたまま見入っている姿に気付くと、ユキは得意気に少し頭を振って、髪を揺らしてみせる。
「綺麗でしょ」
そして、にこっと笑う。子どもの人魚は、小脇に抱えた二人が退屈そうに体をよじるので、我に返ると恥ずかしそうにうつむいて、泳いで行ってしまった。
「ふん、シャイだな」
ユキはそれでもなお、得意気である。
「有名人さんにこのプレゼントを渡して、レッスン受けちゃったら、もっと綺麗になっちゃうなあ」
ニマニマ笑うご機嫌なユキと、そのしもべのようにも見えるグリンは、街並みの屋根あたりの高さで泳いでゆく。
家はどれも砂の下地だが、イソギンチャクや貝を飾って個性を持たせている家も非常に多い。にぎやかな色彩は統一感がなく、一つひとつをしっかり観察しようと思うと、とても目が忙しくなる。
リムをそのままにしておいたら、空腹のイソギンチャクにペロリと飲み込まれてしまっただろう。布があって良かったと、グリンはひしひしと感じた。
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