第21泳

 盆地のように平らな土地に、人魚たちがそれぞれ勝手に建てた家々が一面に広がっている。一番遠くの家は、米粒のように小さく見えるほどだ。その奥にも誰かの住処があるかもしれない。ジンベエザメも悠々と泳げる空間が、海底のさらに下に広がっている。


 街のちょうど中心には、壺の形をした大きな建物がある。ぽこん、とそれだけが飛び出しているせいか、丸々と土地に据えついているせいか、とにかく目立っていた。はじめての来訪者にも、その建築物が特別な意味を持っていることは一目で分かるだろう。

 グリンが以前にやってきたときも、この壺型は変わらずあった。この街で一番古い建物だから当然だ。壺を飾るイソギンチャクや貝が取り付けられていたこともあるが、今日は砂地をあらわにした、基礎的な姿のままだった。


 もう誰も住んでいない家であれば、好き好きに取り壊して新しいものを建てても良い。そんな風に寛容な人魚たちだが、この街の建築にも、ひとつだけルールがある。

 家を建てる際は、街の中心に位置する壺型の家を参考に、決まった高さにおさめること。それがこの街の建築基準だ。

 どっしりとした壺型の家、その下っ腹に横線が一本、それは、建築基準を分かりやすくするために引かれたものだった。


 その壺の頭から、灰色の埃がぶわわっと吹き出る。

「うわ、ちょっと下に降りよ」

 ユキとグリンはうまく埃を避けるため、家々の屋根あたりの低さまで降りていって、そこから空を見上げた。リムは下降する浮遊感を楽しんでいたが、約束を守って海藻をくわえたまま、何一つ言わない。

 おしゃべりができないのは退屈だが、あとで、うまくやったと褒めてもらうためには我慢もできる、少し賢い小魚だった。

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