第16泳

 繊維質の布からイモガイを取り出したユキとグリンが、小鉢をどう煌びやかにするかを考える。

「並び順は、ぜったいにこうでしょ。これがいい」

「イモガイを埋め込んだ植木鉢にしてもいいし、どうしようか」

 二人の相談をよそに、砂の小鉢の中から尾だけ出したリムが、興奮して叫んでいた。

「おれはこういうところに住みたい! あ、でも、出入口がもっと狭くて、おれと友達しか入れないようなのがいい!」


 美味しい海藻がたくさん生えている場所に着いたら、植木鉢を作ったような調子で、家を建ててくれるように頼んでみようかと、リムは思った。


 十個のイモガイのうち、八個を贅沢にあしらった、砂製の小鉢がひとつ。そこへ砂が満たされた。残りの二つの使い道は、仕上げに使うと決まった。

 小鉢に植える海藻を選ぶとき、グリンは腰を下ろして、やや巻き肩で、うなだれて座った。


「うわ、おじさん。海藻めっちゃ生えてるじゃん。なんで?」

「引っ張っちゃダメ、グリンが剥がれちゃう、皮が! ユキ!」

 海藻を軽くつまんで引っ張るユキに、リムが大声で注意している。

「なんで生えたのか、分からないんだ。それで、医者に行こうと思ってね」

 グリンが少し誇らしいような、恥ずかしいような感じで言った。藻が生えたと知ったとき、グリンは大変なことになったと思った。それなのに、リムが嬉しそうに海藻のことを話すたび、少しの安心と、褒められたような気持ちなのだった。


 リムはあまり藻をあげたがらず、ユキに精一杯の主張をした。

「グリンから急に海藻をいっぱいとっちゃったら、体調が悪くなっちゃうかもしれないだろ!」

「海藻が生えてるほうが体に悪いでしょ」

「そんなことあるもんか!」

 リムの言い訳は、突然に大きく温度が変わると体がおかしくなるのと同じで、海藻がたくさんなくなったら、グリンの具合が悪くなるかもしれないということだった。

 そう言いながら、リムはだんだん、本当にそうなったらどうしようと思い始めた。海藻をあげたくなくて理由をつけたが、口に出しているうちに、案外そういうことも起きかねないような気になってきたのだった。


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