第15泳

 リムは海藻から出るのを許されて、用心深く砂の小鉢を調べながら、ひとまわりする。

「ふんふん、これにイモガイの飾りつけをするってわけか」

 それから小鉢をツンツンとつついたリムは、続けて言った。

「固いね。岩でできてるみたいだ。でも、こんなに砂粒の整った岩は、おれ、見たことないぞ」


 このあたりには、そもそも岩が少ない。目の届く限り、砂の王国だ。しかし、リムの生まれたサンゴ礁あたりには、握るのも痛そうなゴツゴツした無骨な岩がたくさんあったのだった。


「おじさんさ、指で探し物できるし、頭から接着剤出てるし、だいぶ変わってんね」

 ユキは、グリンをじろじろ見ながらそう言った。


 そういえば、青緑色の髪といい、長さや太さもそれぞれな指といい、小さくて切れている尾ひれといい、ハゲたうろこといい、気にして見てみれば珍しい特徴が、グリン一人にひとまとめになっている。


 ユキは綺麗なものが好きだ。髪を豊かに伸ばし、きらめく髪留めで飾りたいと思う。他の人魚のすがたかたちを見るとき、目に留めるのは美しいと感じるものだけだ。

 だからグリンの容姿について、ユキはいまさら、向き直って穴があるほど見つめてはじめて、不思議に思うのだ。


「髪の毛、まるで、あおみどろ」

 ユキがつぶやいた。ビクリとしたグリンの気持ちは、パチパチ、三回続けたまばたきに表れる。

「そう、グリンは変わってて、ものすごいんだ!なにより、背中に美味しい海藻が生えてる!」

 リムが、砂製の植木鉢の中から顔だけを出して、元気に言った。歌うようにのびやかで、楽しそうな響きだ。その陽気な様子に、ユキは思わず素直な、少女の笑顔になった。

「たしかに、それが一番、変わってるわ。そんな人魚、聞いたことないし」


「植木鉢、完成させようか」

 グリンが恥ずかしそうに言って、作業再開となった。


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