第12泳

 グリンはユキに十個のイモガイを見つけてくるように言われて、そのようにしたのだった。

 はじめは、百個と言うユキに、グリンは苦い顔をして言って値切った。

「百個は、多いよ。イモガイがいなくなってしまう。海水も、あまり濁らせたくはないし」


 不必要に暴れないことが美徳である。グリンは、探し物にぴったりの手をしているから、遊びで生態を壊さないようにと、きつく言われた幼少期を過ごしてきたのだ。

「グリン、水がすごく濁った。こっちの海藻の中まで濁ってきた。けむたい」

 リムが、背中の藻の中で悲しそうに言った。

「そう、それがね、問題なんだ」

 グリンも悲しそうに言うと、口を結んでうなだれた。

 爆弾でも落とされたかのように舞う砂煙は、グリンの背丈などはるかに超えて、広範囲に海水を濁らせていた。まるで嵐の後だ。


 ユキは楽しそうに布を広げると傍らから身をかがめて、指で転がしながら一つずつイモガイを数えている。

「いち、にい、さん……」

 ついに満足したのか、風呂敷を畳むように貝をしまって、ユキはニコニコ顔である。ツンとした表情をすると大人っぽく見えるが、こうしてご機嫌なところを見ると、やはりあどけなさがある。


「ねえ、おじさん」

 その少女のような素直な笑顔に、企みの色がさした。不遜の色である。

「おじさんってさあ、加工もできたりするの?」


「加工、加工というのは、イモガイのだよね。」

 じっと見つめられたグリンは、受け答えする緊張に目をパチパチさせて言った。

「まだなにか頼むつもりなのか! イモガイ十個って言ったじゃないか」

 リムがグリンの肩の方まで顔を出した。


 ユキはグリンとしっかり目を合わせて続ける。

「あのさあ、おじさん、見たところなんにも持ってないみたいだけど。その背中の魚と海藻はどうするつもりなの? まるだしで街に入るつもり?」


 言わんとするところが分からず、グリンとリムはふむ、と考えた。

「背中の海藻とお魚ちゃんは、布かなんかで隠しておいた方が無難じゃない?世の中、物騒じゃん」

 リムが、黒い目を強調するようにしっかりと見開いてつぶやいた。

「お魚ちゃん……」

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