第6泳
「僕の名前は、グリンという。君の名前は?」
「おれ、リムだよ」
リムはグリンの背中に陣取って、そこで話し始めた。
グリンの目の前で話すよりも、背の方から海藻に守られている方が、リムは安心する。それは体の小さな生き物の性である。実際にこれまで、臆病さがリムの命を守ってきた。
いつか大きな魚になりたいこと、おなかがペコペコで悲しかったこと、砂礫の中には貝やタコも隠れていて、いつ食べられてしまうかいつも心配で仕方なかったことを、リムはお喋りに語る。
「おれがいつでも隠れて住めるような、穴のたくさん開いた、便利な場所があるといいな」
リムはグリンの海藻を時々つまんだが、グリンはそのままにしておいた。もし背中に異変があれば、リムがそのお喋りで、くまなく教えてくれるにちがいなかった。
グリンは内心、自分の背中のことが重く気がかりだ。もしかしたら悪い病気で、痛く苦しい目に遭ったらと考える隙もないくらい、ひたすらに喋るリムに有難いような気持ちが沸いていた。
連れ合いができるとは思いもしなかった二人だが、こうして一緒にいると、お互いになんだか心がほっとした。そういう意味ではお似合いの仲間だ。
「グリン、これからすぐ街へ向かうの?」
「そうだな、うん。早いところ、お医者様を見つけたいからね」
「おれは海藻のあいだにすっかり入れるよ。心配いらないよ。どんどん泳いでくれよ」
グリンの尾ひれは小さい。水をかいても、かいても、子どもの人魚ほどにしか進まない。
一方、リムはグリンの背中の海藻に隠れて、吹き飛ばされないように気を付けていた。人魚にしては足の遅いグリンだって、まだ小魚のリムに比べれば、泳力はずっと強い。
それに、グリンはおなかがすかない。食物を必要としない人魚は時々ヤレヤレと休むことはあっても、空腹で動けなくなることはない。
「リム君、僕の背中、どうなってるの」
「うん、赤と、茶色と、緑の海藻が、どれもやわらかくて美味しいよ」
砂礫が続く場所を、グリンはリムを連れて泳いでいく。
チラリと砂礫の上を見やると、たしかにタコが時々隠れている。砂をすっぽり頭まで被って、リムのような小さな生き物が通りかかるのを気長に待っている。
グリンは、なるほどリムがこの危険な大砂礫を渡るのは、神経がさぞへとへとに疲れる旅だったろうと思った。
そしてようやく海藻にありついたのに、そこが安住の地にはなりえなくて、さらに人魚を相手に果敢に交渉を挑んだリムだ。砂粒のように小さな口でちょんちょんと背中の海藻をつまむくらい、グリンはなんということもない。
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