第2話 スキル発動 赤兎馬

この世界に来て見るもの全てが新しい情報で俺は混乱した。

言葉はどういうわけか日本語だった。しかし文字は異世界語。その文字は毎日少しずつ瑞希と時雨さんに教えてもらっている。文字の仕組みは母音と子音を簡単に組み合わせたものでローマ字みたいなものだからすぐ覚えられそうだ。


ある日の事である。時雨さんからのおつかいで瑞希と俺はマーケットに来ていた。

中国に夜市というものがあるが、若干似ているように感じる。屋台もたくさんあるし活気にあふれていた。メモ帳に書いた材料を瑞希と俺は買って定食屋日向ぼっこに帰るところであった。


ドン。っという身体に響く音がして、瑞希が後ろに転んだ。

買った野菜やお肉などは袋から飛び出ている。がっちりした大柄の男にぶつかったのだ。

瑞希は散らばる野菜を無視してすぐに謝った。誠実に謝ったはずなのだが……。

「おい。お前男連れだからって。浮かれてんだろうが!!」

男は顔をゆがませて汚い言葉を吐いていく。

「男も男だっつーの!! お前がしっかり女をしつけていたらよぉ……」


俺はぶつかった程度でここまで言われる事に対しての怒りを抑えながら、もめごとを終わりにしたく何度も謝った。それでも俺だってかなり誠実に謝っているはずだ。

瑞希は泣きそうになりながら頭を下げて謝っている。

「あの、いい加減勘弁してもらえないですか……いつまでもこうしているわけにいかないし。俺たちだけが悪いわけじゃないでしょうに。」

「あぁ?」

男は逆上した。


「ふにゃあ!! ご主人様助けて!!」

男はあろうことか座り込んでいる瑞希の腕をつかみ持ち上げようとしたのだ。

「痛いにゃあ……!!」

怒りで時間がゆっくりに感じる。

頭の中で声がする。如月四季。あなたは早く動ける。電光石火の如く。

それはあなたがもう知っていること。

頭がフル回転で動く。


「「――駆けろ赤兎馬。」」


ドンッ。と音がなり気が付いたら男の腕をひねり上げていた。

細かい所作は覚えていないが光速で動けることを体感で知っていた。わかっていた。

呪文のように唱えたら光の速さで相手に接触して制圧して。

「痛てぇな……!!」

すぐにパッと手を離す。男は距離を取る。


「ご主人様ぁ~~……」

瑞希は今にも泣きそうだ。

「お……お前……!! 今消えた……!! クソ!! 付き合ってらんねーよ!! 気をつけろよ!!」

「ご主人様~~」

瑞希が俺にくっついて顔をうずめている。怖かっただろうと頭をぽんぽんとする。

俺も結構ビビった……普通にいかつくて怖かった……。

それであの呪文はなんなんだ……? 魔法? この世界にあるのだろうか。俺に魔法……?


俺が瑞希と自分を落ち着かせていると、軍隊のような装備を身につけ身体を鍛えていることがわかる人。この世界の警察なんだろうなという人が近くに来ていた。ロープなどを持っている。自警団とも言うはず。


「へぇ。君スキル持ちなんだね。瞬間移動のスキルなのかな? それか光の速さで意識的に止めたり進めたり移動できるスキル。あんなの来るってわかってても絶対回避できないよねぇ……」

「あの……あなたは……警察の方ですか?」

「ああ、俺は自警団の人間でさ。もめごとあるから来てくれってね。警察っていう言葉がわからないけど、簡単に言うと悪い奴つかまえるのが仕事だよ。」

「ありがとうございます。来ていただいて安心しました。……あの……いろいろ質問ばかりで申し訳ないのですが、スキルって言うのはなんですか?」

「んー個性みたいなものかな。その人が出来る特殊技能。誰でもできるのが魔法ね。」

魔法。魔法はかなり厳しい。多分俺には縁がないんだろうな。


「ご主人様……助けてくれてありがとう……。怖かったよぉ……。ご主人様助けてくれてカッコよかった……!!」

「へぇ……君。彼女にご主人様とか呼ばせてるんだぁ……。」

「ちょっ……!! そうですけど違います……!!」


「ま。俺は帰るけど君自警団来ない? 見学でもいいよ? スキルについて興味津々だったから使いこなせるようにしてあげるよ?」

「……考えておきます。」

魔法やスキルが存在する世界なんだと思った。ここは夢の世界なのかと疑った。


「名前は?」

「如月四季です。」

「四季? いいね。繰り返す時間、季節。四季か。うん。四季よろしく。俺はローゼス。自警団で一番強い男だよ。体術でも魔法でも。なんでも君に教えてあげる。」

「一番……すげぇんですね……。」

「いやいや四季のスキルだったら体術乗ってたら、防ぎきれないのと体力削られてやられるから四季は凄いんだよーだからスカウトしてる。気が向いたら来てよ。住所は人に聞けば教えてもらえるよ。皆知ってる。」

「俺、最近ここに来たものだから……」

「そうらしいね。まぁそうかもって思ってた。」

「他にも俺みたいなのいるんですか?」

「いる。まだ細かい事は言えないんだ。まぁ気が向いたら来てね。じゃあ俺は次行くよ。四季とのスパーリング楽しみにしてる。」

「スパーリングなんかできませんって!! ありがとうございました。じゃ、瑞希帰るぞ。」


いそいそと買った商品を拾って、袋に詰めて帰ることにした。

帰ると時雨さんが心配してお見せの入り口で待っていた。

今日あった事を時雨さんに説明するととても心配したので失敗した。

スキル。魔法。自警団……今日はいろいろな事があったな。

自警団、今度行ってみよう。俺がどうしてここに来たかわかるかもしれない。

ああ。疲れた。今日は休もう。


その日はベットに入るとすぐに俺は眠りについた。

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