彼の住宅内見
ミハナ
彼の住宅内見
「そうですねー、良いんじゃないか、お前」
「そうねえ、あの、予算的なのは……」
住宅の内見である。
そこそこ広めで、子供達がすくすくと育ち遊べるのいいわねえとのお客様の奥さんからのプッシュも受け、接客の熱もかくやというものである。
勿論それは彼、住宅接客担当の猫山もそうであった。
「じゃあ、こちらに決めましょうか」
「そうだな、お願いします」
ここまで引き出せれば彼の営業は成功である。
だが、彼の場合ほとんどが購入見送りになってしまうのだ。
その理由はと言えば。
『そう! ! いいだろう! !なんせぼくが欲しいぐらいの好物件だ!!
さあほら早くサインをしてしまいたまえ! !』
ふよふよと住宅のあちこちを見ては熱のこもった賛成意見を言い、住宅購入をせまるこの和装の男のせいで、全部おじゃんになっていたのだった。
そう、彼、猫山だけが知らない事実。
それは猫山の成功を手助けしようとするもから回る、彼の守護霊である和装の男が憑いてる、からである。
ああ、哀れ、今日もサインまで漕ぎつかせられなかった猫山が意気消沈したように肩をがっくりと落としていた。
「おれ、接客のセンスないのかな……」
『いや、お主はよくやってるぞ、ぼくが全部見てるからな、なあに、今回のお客様に見る目がなかっただけのことよ』
「これでも前の会社でトップをとった営業成績なんだけどなあ」
『うむ、あの成績実績は凄かった! あれを塗り替えるものはそうそう現れないだろうよ、お主はえらい、よく頑張っているぞ! 』
「この仕事、向いてないのかな……また営業に戻るのもなあ……」
『お主にぴったりの仕事だと思うがなあ、猫山よ。あまり気を落とさんことじゃ。次を見るんじゃよ』
ふよふよふよふよ漂い、猫山を励ますも。
当の猫山からは見えても、聞こえてもいないのである。
かくして、猫山はまた新たな、予約されたお客様の元に赴くのだった。
ふよふよ漂う、彼に憑く守護霊を伴として。
『次は決まるといいな! !』
彼の住宅内見 ミハナ @mizuhana4270
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