虹色カラスのお宅内見
源なゆた
虹色カラスのお宅内見
「カァ、これは良い枝を使っていますね」
自称・虹色の
「流石、お目が高い。こちら、法隆寺から取り寄せた逸品でして」
と不動産仲介業者。
「カカァ、法隆寺、あの、柿が有名な!」
「そう、あの法隆寺です」
鴉にとっては柿だけが有名である。
「カァ、であれば、ここは候補に入れておきたいですね」
「承知しました。ただ、人気物件ですから、すぐに埋まってしまうかもしれませんが……」
「カァーッ、手付け金カァ。このミツヒカリカネワで如何ですカァ?」
「失礼、拝見します……ガーネットの指輪、ですか。よろしいでしょう、もしこちら以外の物件を選ばれた場合は返却致しますので、ご安心を」
「カァ、ご親切にどうも」
この鴉、なんでもないような顔をしているが、その実、最も大切にしている五つの宝物のうちの一つを差し出したのだ。内心、気が気ではない。
「では、次の物件へご案内します」
「カァ、よろしくお願いします」
それが証拠に、いくらか沈み込んだような声だ。具体的に言うと、カァ、に元気がない。だが無論、熟練の業者はヤブ蛇ならぬヤブ鴉には触れず、先に立って移動し始めた。
「次の物件はとっておきですよ」
徒歩での道中、業者が営業
「カァ、どうしてですカァ?」
まだ宝物のことが気にかかるようだ。
「実は、長年営業されているお店でしてね、大変人気があるんです」
「カァ、それはまた結構ですが、営業されているというのはつまり、『空き巣』ではないのでは」
「勿論そうなんですがね、
「カァーッ、奇特な方もいるものですね」
「ええ、ありがたいことです。……と、着きました。こちらへどうぞ」
「カァ。どうも」
差し出された業者の腕へ飛び移り、共に、なかなかの
「カァ? もし、こちらでは?」
「いえ、そちらは別宅でして、店内に本宅があるんですよ」
「カァ、それは、至れり尽くせりというカァ、何と言うカァ」
巣はあたたかいに越したことはない。将来雛を育てるのにも向くはずだ。
「あらあらあら、いらっしゃい」
カラン、コロン、と鐘の音が心地好く響いた直後、温和そうな老婆が出迎えた。
「こちらがお話のあった子?」
「ええ、ご賢察の通りです、
「カァ、よろしくお願いします」
店内は暖かく、数々の装飾が煌めいていて、鴉は既に、ここへ決めたような気分になっていた。
「ええ、こちらこそ、よろしくね。あなた、例の子が来てくれたわよ」
「ん、おう、いらっしゃい」
光る板に向かっていた老爺が向き直った。やはり優しそうに見える。
「カァ、よろしくお願いします」
挨拶を繰り返す鴉。案外育ちが良いらしい。
「ああ、よろしく」
老爺は鷹揚に応え、
「では、早速だが、こちらへ」
案内を買って出た。
「うちは代々鳥が好きでね」
歩きながら、老爺は言う。
「喜んでもらえるよう、なるべく良い環境を用意しているんだ」
「カァ、ありがたいことです」
こうして歩いている間も、左右の壁には通好みの枝やヒカリイシが飾られていて、その一つ一つに鴉は目を奪われ、期待に胸を躍らせた。ただの近所でこれなら、本宅はどれ程なのだろうカァ、と。その喜びが、老爺にも伝わったらしい。
「ははっ、そう言ってもらえるなら嬉しいよ。さあ、ここだ。どうぞ」
促されて、鴉は業者の腕から板へぴょんと飛び降り、浮かれ気分で鳥用の入り口と思しき暗がりへ進んだ。一歩、二歩、三歩。
――ガシャン!
鴉の背後で音がした。カランコロンの鐘とは違う、もっと重くて、硬くて、全然光っていない、怖いやつだ。
「カァーッ!??!?!!?」
狂乱する鴉。当然だ。罠にかけられたのだから。
そこへ業者が、白々しく声をかけた。
「随分気に入って下さったようで、良かったです」
「カァッ!!!! 何を、こんなことをして、私を誰だと思っているカァ!! 遡れば熊野は那智の八咫「ダメですよ」
鴉の言葉は遮られ、更に重ねて宣告された。
「ダメですよ、お客さん。親のナナヒカリなんて通用しませんから」
虹色カラスのお宅内見 源なゆた @minamotonayuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます