【KAC20242】VR内見

属-金閣

第1話 未来の内見?

 休日のある日、複合施設内にて映画を見終えた帰りであった。

 イベントスペースにて、出張不動産と代して出店していたのが目に入り足を止めた。


「(出張不動産ってなんだ? わざわざこんな所で不動産見るのか? てか、こんな所に不動産家の出張店舗って珍しい過ぎだろ)」


 そこには一人の社員らしき人物が立っていた。他の者はおらず休憩中なのかと思っていると、その人物と偶然目が合ってしまう。


「あ、もしよければ体験していきませんかVR内見」

「VR内見?」


 咄嗟に俺は聞き返してしまう。

 相手は思い描いた通りに俺が興味を持った事に物凄い営業スマイルを浮かべる。

 俺も聞き返してしまった手前、引くに引けなくなってしまう。


「ちょっとした時間潰しという感覚でどうですか? 中々できない体験だと思いますよ」

「……っ、じゃちょっとだけ」


 俺は社員さんの元に行き、丁寧に案内されつつ椅子に座る。

 相手は机を回って俺の正面に座った。


「改めまして、お時間ありがとうございます。私、凸凹不動産の二枚舌にまいじたと申します」

「(その名前で不動産は、なんというか、大変だろうな)」


 二枚舌に名前を聞かれ、俺も名前を答える。


「では内海うつみ様、早速VR内見を体験してもらいましょう」


 そう言って二枚舌が取り出したのは、何故かパーティーグッツでよく見かけるグルグル眼鏡だった。

 俺はてっきりVR機器が出されるのかと思っていたため、全く予想してない眼鏡に唖然とする。


「では、そちらを掛けてい――」

「いや! ……その、え? マジですか?」

「あ〜ですよね。でも騙されたと思って掛けてください」

「いやいやもう騙されてる気しかないんですけど!」

「まあまあ、掛ければ分かりますから」


 俺はそのまま二枚舌に強く勧められる言われるがまま、グルグル眼鏡を掛けた。

 するとレンズ越しに見えたのは、何処かの家の中であった。

 まさかの展開に俺は一度眼鏡を取り、もう一度眼鏡を掛けた。


「凄いでしょ。見た目ふざけてるのに、しっかりとVR内見出来る最新技術なんですよ」

「疑ってすいませんでした。本当に凄いですね」


 俺は二枚舌に移動方法を教えてもらう。

 移動には別途付属品を付ける必要があるらしく、一度眼鏡を外しつけ鼻とカモメを逆にした様な髭を眼鏡に装着する。

 その後、恥ずかしさと葛藤しつつも再度眼鏡を掛けた。


「髭の左右で視点を動かせ、鼻を上になぞると進み、逆になぞると戻ります」

「いや〜凄い技術ですね。それに内見出来ているここも凄いですね」


 内見している部屋は、とあるシェアハウスと説明される。

 二階建てで一階のリビングにはダイニングキッチンがあり、大きなテレビも存在していた。またリビングには大きな窓があり、そこから明るく日差しが差し込んでいる。

 トイレとお風呂は別で、洗濯機や乾燥機付きと素晴らしい場所であった。

 二階は個人スペースとなっており、各部屋が存在している。

 しかし、少しだけ気になった点があった。


「あの、内見にしてはかなり生活感が大きく出過ぎな気がしますが……」


 各場所綺麗には見えるが、内見にしては家具や生活感が物凄く伝わる物が多くあったのだ。内見というより、人の家に遊びに来た感覚に近かった。


「あ〜それは住むとそんな感じですというリアルさを大切にしてるんです」

「な、なるほど……」

「想像するより目で見れるのでギャップが少ないと思って、私が提案してやらせていただいてます」


 これが二枚舌の提案だと初めて知る。

 確かに生活感がある方がイメージしやすい気もした。住んでからのギャップは少なくなるのかもと思ってもしまう。

 だが、その後その考えを俺は少し後悔する。


「VRでここまで再現するには大変だったんじゃないんですか?」

「いえいえ、そんな事ないですよ。三百六十度映せるカメラで自宅を撮影して、それをVRにしてるだけですので」

「あーなるほど……えっ、自宅!?」


 そう俺が気になる点はありつつも今まで優良物件だと思って内見していた場所は二枚舌が住む家だったのだ。

 俺は絶句してしまい、ゆっくりと眼鏡を取った。


「どうでしたか、うちのシェアハウス。オススメ物件です。あと一名定員募集中ですよ」


 ただただ俺は苦笑いをし続けた。

 掛けていた眼鏡をゆっくりと机に置き、改めて物凄い物を休日の複合施設でかけていたなと実感する。


「(技術は未来の不動産って感じだけど、流石に説明担当者が住んでいる場所には住みたいとは思わないな。うん)」


 その後二枚舌が別のパーティ用眼鏡などを出し始める。

 が、俺は丁重にそれを掛けるはお断りし、体験を切り上げ帰路に着いた。

 その道中、ふとある事を思った。


「(何故グルグル眼鏡だったんだ? 普通の眼鏡で良かったろ)」


 内見した物件よりも、俺の中ではあのグルグル眼鏡のVR機器が強く印象に残っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20242】VR内見 属-金閣 @syunnkasyuutou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ