ピピとポポのおうち探し

さくらみお

第1話


 ピポポポポ……☆彡°˖✧˖°



 ピポポポポ……☆彡°˖✧°˖✧˖°✧˖°




 ☆°˖✧˖°☆°˖✧˖°




 ここは宇宙。

 太陽系の火星の近く。


 新婚宇宙人・ピピとポポは、新婚旅行がてら新しい新居を探していた。



「ピぽ!!」 

(ポポ、見て見て!

 ほら生物がいる星が見えてきた!!)


「ポポ?」 

(青い星だね。キレ~!)


「ピピ!」

 (うん、コンピュータのデータだと、ぼくたちも住めそうな星だよ!)


「ぴポピ!!」

(やったー! さっそく降りて、おうちを探してみよう!!)



 ピピとポポは宇宙船の、二本しかないレバーを巧みに操作して、地球の日本に向かった。




 ☆°˖✧˖°




 降り立ったのは日本の東京都渋谷区。

 堂々とスクランブル交差点に宇宙船を着陸させて。


 一瞬、通行人たちは驚いたが、幸か不幸か、その日はハロウィンだった。


 宇宙船から降り立つ巨大なタコさんウインナーそっくりのピピとポポを奇異な目で見ながらもみんな(手が込んだ仮装ウインナーだな)と思いつつ、スマホで盗み撮りした。


「ポぴ!」

(おサルさんがたっくさんいるね!)


「ピぽ!」

(可愛いね! 私、動物に囲まれて暮らすの夢だったんだ!)


「ポポポ?」

(さあ、どんなおうちがあるのかな?)


「ぽぴポ」

(あ、ピピ見て見て)


 ちょうど雑踏の中でポポが拾ったのは、住宅情報のチラシだった。


「ぽぴ?」 

(これ、おうちのお知らせじゃない?)


「ポポポ」 

(そうみたい! へえ~、この星のおうちはみんな□なんだね。おもしろーい!)


「ピピピ!」 

(見に行こ!)


「ポポポ!」 

(見に行こ!)


 二人はチラシを持って、イソイソとその物件に向かった。




 ☆°˖✧°°˖✧˖°




 二人が辿り着いたのは渋谷駅から徒歩三十分。


 築40年の昭和風のアパート。

 丸井コーポ203号室。

 当然、勝手にやって来たピピとポポは鍵なんか持っていない。

 ぐっぐっと手で扉を押しても開かない。



 二人は頷くと、初めての共同作業として扉を蹴り破った。



 ――ところで。


 ピピとポポの拾ったチラシなのだが。

 それは数カ月前に発行された古い情報誌だった。


 丸井コーポ203号室には既に一人の男が住んでいたが、そんな事知る由もないピピとポポ。


 丸井コーポは1DK。

 入ると直ぐに四畳のキッチンダイニング。

 右にバス・トイレ。

 そしてキッチンダイニングの奥に六畳の部屋があった。


 もちろん、人が住んでいるので家具もあれば、キッチンには食材もあり……。


 ピピとポポはキョロキョロと物珍しそうに眺めながら、奥へと進み、襖を開けて六畳の部屋へと入った。


「――……はっ? へっ?」


 そこには丸井コーポ203号室の住人、浪人生の野村(20)がパンツ一丁でちゃぶ台に座り、カップラーメンを食べていた。


 そこへ野村を囲うように座るピピとポポ。


「えっ……? あの、どちら様……??」


「ピポピポ〜!」

(素敵なおうちね〜!)


「ピピピポ!」

(広くて住みやすいね!)


「……あ、あの?」



「……ぽぴぽぴ?」

(……決めちゃう?)


「ピピぽぽ!」

(決めちゃおうよ!)


 ポポとピピは丸井コーポ203号室に入居することに決めた!


「あの、あの……?」


 その時、ピピのお腹が「チャミーン☆」と鳴った。


「ぽピピ……」

(お腹空いちゃった)


「ピポポ!」

(ランチの準備するわね!)


 立ち上がりキッチンへ向かうポポ。

 その間、ピピはちゃぶ台に頬杖をついて野村をじっと見つめた。


「え……? ちょっと、なに……」


 ピピはじっと見つめた。


「ちょ、近い、近い! そんな、見つめないで……」


 ピピはじっと見つめた。


「……これはヤスダの悪ふざけなのか?」


 野村には、悪友という言葉が一番ピッタリくる幼馴染みヤスダがいる。


「ヤスダぁ、いるのか?! なあ、お前だって言ってくれ!!」


 野村は家中のどこかにヤスダがいると信じて、押し入れ、トイレ、バス、キッチンとあらゆる場所を探す。そんな野村を追い、ピピはじっと見つめた。


 その間にも。

 ポポは天性の勘で、野村のストックしていたカップラーメンを2つ作りあげる。


「ぽぴ!」

(ピピ、出来たわよ!)


「ポポポ!」

(ポポ、ありがとう!)


 野村もまた、ヤスダに電話するために奥の部屋に戻れば、またしても野村を囲うようにちゃぶ台に座り、今度は二人して野村を見つめながらフォークでカップラーメンを食べ始めた。


「つるるるるっ!」

「ちゅるるるっ!」


 野村はちゃぶ台の上に置いてあったスマホを手に取ると、二人の間から逃れた。


 しかし二人はカップラーメンを食べながらも、

 野村についてくる。


「は? な、なに? ちょっと狭っ」


 再び無理やり逃れようとするが、必ず野村の右と左を死守するピピとポポ。


「なんなの?! 俺挟まないと死ぬの?!」


「ぴぽぴぴ〜!」

(コレ美味し〜ね!)


「ぽポポポ〜!」

(毎日コレ食べよ〜よ!)


「うわあああ!! これは夢なのかっ!? 夢なら覚めてくれっ!!」



 ――その後もピピとポポはずっと野村の左右を陣取り、野村に精神的苦痛を与え続けた。


 その間になんとかヤスダに電話もしたが、全く身に覚えがないという。


 そんな野村と反してピピとポポは野村の部屋でやりたい放題を続け、夜もピピ・野村・ポポのポジションで手を繋いで川の字で眠った。





 ☆.。.☆:*・゚





 翌朝。

 野村が目が覚めると、ピピとポポはいなかった。


「……いない……」


 野村は押し入れ、キッチン、トイレ、バスルームとくまなく探した。

 しかし二人の姿はない。


「……夢、だったのか?」


 その瞬間、ピピとポポが再び扉を蹴り破って現れた。その両手には大量のカップラーメン。


 そして、更に後ろにピピとポポより小さいタコさんウインナーがゾロゾロと五人も入ってきた。


 その子達は昨日、扉をぶち破った時――初めての共同作業の時に出来たピピとポポの子ども達である。


「ぺぴ?」

(ママ〜、ここが僕たちのお家?)


「ぴぽピピ?」

(そーよ。素敵でしょ?)


「ぷぽぴ!」

「ぺぽぴ!」

「ぽぺぴ!」


 小さなタコさんウインナー達は喜んでいる。

 彼らもまた野村の前と後ろに張り付いて、野村を見つめている。


 そして、ポポが大量のカップラーメンを作れば、全員が野村を見つめながら食べ続けた。



「な、な……!」



 ピピとポポと子ども達は野村をじっと見つめた。



「あ、あ……!」



 野村を、じっと見つめた。





 ――野村が、退去を決意する五秒前。



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