第6話 勇者と英雄の約束

「使い勝手の悪い身体だな、」


感覚としては十数年ぶり。

血塗られたロイの身体は逆再生の様に修復されてく。


「臭うな」


「臭いんだったらもっと早くに教えて。

 それともロイじゃないのかな?」


異質な気配。

一番にその異様な魔力に向かって着いた場所にはロイが上裸で立っていた。

顔も身体も見慣れた姿。

しかし内なる魔力が外気に漏れ、ここ一帯に魔素の濃度が高くなっていることが肌でわかる。

彼はロイじゃない。


「おい女。

 勇者の居場所を教えろ」


「なぜ勇者を探してる?」


「黙れ。

 どこに居るかと聞いている」


「なんでロイがそんなこと知りたい…ッ!?」


爆発音と共に爆風が吹き荒れる。

かすり傷からツーと垂れる血は頬を伝い、震える指でアスカは血を拭う。


ない


左後方に生えていた木や地面。

アスカの左に視認していた物体すべてが”何か”によって消し飛んでいた。


「言え」


ここで答えなければ私は死ぬ。

さっきの技をもう一度出せるのだとしたら、私は死ぬ。

彼の居場所…

今からがどこに滞在しているのか私は知っている。

だけど、私が死んでも彼だけには危害を与えたくない。

こいつと戦えば彼は死ぬ。

多分…けど、、


真っ赤な夕日をアスカは二人で眺めていた。

草の生い茂ったスズメたちの鳴く山は私達の思い出の場所。

そう、私と勇者の…シスとの思い出の場所。


「アスカ、俺は英雄になるぜ」


「シスが英雄?

 無理じゃない?」


「バカ、俺は勇者だぞ。

 世界一の男になって俺は英雄になる」


「女は対象外って言いたいの?」


「相変わらずめんどくさい女だな」


そう勇者シスがムスッと話すとアスカはフッと笑った。


「何でそこまで英雄にこだわるの?

 勇者の方が良いと思うんだけど」


「何もわかってないなアスカは。

 知ってるか?」


「なに?」


『”英雄”…は必ず嵐を呼ぶんだぜ』


「何それ?」


アスカは口元を抑えて笑みをこぼす、


「じゃあ…期待しとくね、英雄さん」


英雄は…嵐を呼ぶ。

信じるよ?


「……知ってる。

 私は勇者の居場所を知ってる」


「どこだ」


空を見上げていた”ロイ”が初めてアスカの目を見て視認する。


「教えない」


「死ね」


ドクン


心臓が高鳴る。

答えた瞬間に攻撃が来ることはわかっていた。

だから私は自分の出せる最大出力の魔力を足に込めて”その”攻撃を回避する。

先程と同じ爆発音。

確認しなくてもわかる。

私の居た場所に大きな穴が出来てる事が。


「定まらん」


「クッ、、!」


アスカは悟り、歯を食いしばり全力で身体の皮膚に魔力を纏い注ぐ。


「終わりだ」


ドクン


「ウゥ、、!!」


ロイはアスカに向けて手のひらを向ける。

その瞬間アスカを白い光がバチバチと覆う様に襲い掛かる。

爆発音に駆け付けた者はその光景に絶句する。

怪物と謳われた新時代の象徴であるあの女が、

魔物討伐部隊の最高傑作と言われるあのアスカが簡単に吹き飛ばされる光景。

まさに地獄


「つまらん」


溜息を吐いてロイは呆れながらその場で座り込む。

そして自分の身体がまだ慣れていないことを肌で感じる。

『疲れ』

いつぶりに感じただろうか。

俺がこの程度で疲労を覚えたのは。


「あんまり…大したこと無かったり、、」


「おいおい、マジか」


土煙が舞う中、それを手で仰ぎ出てきたのはボロボロの姿のアスカであった。


違和感


「なぜ生きている」


「さぁ、お前が弱いからじゃないかな」


「そうか、悪かったな。

 すぐに殺してやる」


ロイは重い体を起こし、ボロボロのアスカへと歩み寄る。

この女には微塵も魔力が残っていない。

さっきのを防がれたのは望外の魔力出力…あるいは、、


「俺の技を受けて生きている女など久しいな。

 本当に勇者の居場所を教える気はないのか?

 今ならお前を称して改めて聞いてやろう」


「どうせ殺すくせに」


「ほう、バレたか」


最期に殺されるのがロイなら…悪くないかも。

そんな事を思ってアスカはフッと笑みを浮かべる。


「ごめんね、ロイ」


ドクン


違和感

いや、違う。

明らかに聞こえる。

今、確信した。


「殺さないの?」


アスカの首に手をかけるロイ。

しかし次第に掴む力は弱まっていく。


「なんだ?」


ドクン


まただ


ドクン


その音が鳴るたびに力が無くなっていく。

違う。

この身体の支配権が弱まっている。


「まさかこの俺から奪おうってのか…

 この小僧」


ドクン


「アスカ…」


「ロイ!?」


「俺を殺し、」


「……」


「早く、」


「……」


「アスカ!

 やれ!!」


そう叫ぶのは後ろで木の陰に隠れる男。

魔物討伐部隊入隊の主催者の男である。


「でも…」


「いいんだ、

 本当にごめん。

 来世でまた…修行付けてくれ」


「アスカ!!

 早くそいつの首を刎ねろ!!」


アスカは膝から崩れ落ちる。


「何を…

 何をしているアスカ!

 その化け物を殺せ!!」


「い…いや。

 嫌…

 私は彼を…救いたい」


「救うだと?

 馬鹿かお前は。

 貴様がやらねば俺がやる」


「いや、約束が…

 いややめて、、、、」


うな垂れ頭を抱えるアスカ。

その横を主催者の男は震える身体で歩いていき、アスカの剣を持ち上げる。

それに対抗するようにアスカは自分の剣を掴むが顔を踏みつけられる。


「黙っていろ、無能女」


生い茂る木の隙間に差し込む光に照らされ、鋭い刃が顔を覗かせる。

男は重たい剣を両手に息を整えロイの首を捉える。


「化け物め…死ね!!!!」


「やめてッ!!」


その刃はニヤリと浮かべ、最高速度で振るわれる。

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六眼の王~全てのスキルを奪う パンパース @kiriyasi

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