第5話 推定ランク SSS級の魔物を感知しました

「この蜘蛛の魔玉はデカすぎて取れねえな。

 まあいい、取り合えず帰るとするか」


微かな意識の中、男の声と足音が遠くなっていく。

両目をくり剥かれた今、周りを確認することが出来ない。

それどころか身体が一向に動かない。

溢れだす血液は身体全身を真っ赤に染めている。

その多くはロイの目から噴き出したもの。


「やめ…」


そこに居るのがわかる。

小さな、弱い魔物が俺に近づいている。

そして身体の一部に激痛が走る。

そう、視えはしないが感覚でわかる。

俺は食べられている。

人間の血の匂いに釣られてやってきた魔物達に、


「死ぬのか、」


呆気ない人生だった。

俺は何も成しえなかった。

最期まで俺をいじめてきた奴に勝てなかった。

超えられなかった。

ただ、最後に頑張れてよかった。


「来世は、式神を頼む…」


食われる身体は腕から血を吹き出す目に移る。

ちゅるちゅると血を吸っている音が鮮明に脳内を支配する。


(あぁ、強くなりたかった…)


意識が遠のいていく。

気持ちがいい。

死って、こんなに気持ちがいいのか…

これで、自由だ。


「頑張れ」


アスカの言葉が脳内を駆け回る。

あの時の言葉、短く端的だった。

もっと言う事あるだろと、もっと何か具体的に言葉が欲しかった。

もっと感情的に言って欲しかった。

あぁ、腹立つ

むかつく

けど、嬉しかったなぁ


「負けられねえよなぁ」


ドクン


周囲の空気が一変する。

それと同時にロイを食い散らかす魔物達が倒れていく。

それも泡を吹きながら。

ロイの身体は意図に釣り上げられるように起き上がり、噴き出した血液がロイの身体に集まっていく。


「あ?」


眩しい

数秒、久しい光に怒りを覚える。

次第に目は慣れていき、周囲を見渡す。


「どこだ」


知らない場所。

前の記憶を思い出せないが、視界が低い。

下を向き、身体を見渡す。


「なんだ、この貧弱な身体は」


力を籠める。

バリバリと黒い稲妻が身体を駆け巡り、森全体を駆け巡る。


「何だ!?」


魔物討伐部隊入隊試験の門外

試験監督を担当する試験官が10名、気を失った。

それどころではない。

我が子の帰りを心配している親御さんや興味本位で試験を見に来た者も一瞬にして気を失った。

冷や汗をかいて意識を保つのは限られた実力者だった。


「一体今のは…まさかアスカか?」


「私ではない。

 と言うより、私ではあれほどの魔力を出せないよ」


今ここで先程の強大な魔力を放出できるのはアスカぐらいだ。

そうでないとすれば、明らかに森内から来た魔力の並み。

化け物が居る。

皆が息を飲む。


「今度はなに!?」


大きなサイレンが鳴り響く。

それも人生で聞いたことの無いような地響きのようなサイレン。

そのサイレンと共に発せられる無機質な言葉に皆は言葉を失った。


『推定ランク SSS級の魔物を感知しました。

 今すぐ住民の方は非難をしてください。

 繰り返します…』


「SSS級だと!?

 SS級ですら聞いたことない、、のに」


「まずい…」


アスカ自身もSSS級の魔物と遭遇した経験はない。

辛うじてSS級との対峙はあるが、不安がよぎる。


「アスカ、やばいよ」


「わかってる」


「どうする?」


迫られる選択。

メイメイはS級すら経験がないだろう。

ここに居る者でS級魔物の経験がある者は私だけだろう。

 

「メイメイは近くの住人を避難させて。

 私は森に行く」


「……大丈夫なの?」


「何とかする」


それしか言えない。

初めてS級魔物と対峙した時の感覚を思い出す。

あの時は震えながらも格上のS級魔物に勝てた。

今度も出来る。

震える身体に鼓舞して頷く。

そして不安で震える手を握りしめ、アスカは颯爽と駆け出した。



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