【はじけろ!コーラ星人外伝】新居を内見したらクセの強すぎる営業担当だった件について

【はじけろ!コーラ星人外伝】新居を内見したらクセの強すぎる営業担当だった件について

 結婚。

 それは、人生最大の節目なのではないかと俺は思う。


 今までの人生は自分中心だったが、これからはパートナーと共に過ごすことになるからだ。

 新居選びも例外ではない。

 ただ外見が美しいというのではなく、生活をする上での機能性が最も重視されるのだ。

 つまり、この新居選びをしくじった場合、生活の主導権を全てパートナーに握られるという、男にとって最大の危機ともいえるイベントなのだ。


 今日はそんな新居の内見を予定している。

 今まで宇宙船で生活をしていたため、地球の家についてはよく分からないが、なかなかの豪邸が候補になっているので楽しみだ。


 おっと、自己紹介が遅れました。

 俺はイチロー。もちろん宇宙人だ。日本では佐藤一郎という名前で生活をしている。

 横にいるのは俺の婚約者ハカセだ。彼女も宇宙人で、一ノ瀬博美という名前で大学教授をしている天才だ。


 8年ほど前に彼女からの逆プロポーズで婚約することとなったのだが、価値観の違いに苦労し続けている。

 俺は比較的自堕落な性格なんだけど、ハカセは極度の潔癖症で努力大好きという、俺と真逆の性格なのだ。

 一体、俺の何が良くて結婚したいと思ったのかは謎なのだが、どうしても俺でないとダメらしい……。えへへ~。


 ――

 

「佐藤様、一ノ瀬様、物件に到着しました。どうですか、見事な佇まいだと思いませんか!」


 不動産の営業担当タカタさんという方なのだが、声がやたら高い男性だ。

 大声でセールストークを連発しているが、ハカセは見事にスルースキルを発動させている。


 この物件、なかなかの豪邸なのだが、最近不倫が原因で離婚した有名タレントが売却した『いわくつきの家』ということで、破格の売値がついているらしい。

 そんな家を新婚夫婦に勧めるなよ……と思ったのだが、意外にもハカセは気に入ったらしい。

 間取り図を見ながら、『この建築士はよく分かってる』とか言ってたな。


 リビングには大画面テレビは備え付けられていた。

 タカタさんはその前に立つと、バッと両手を広げた。


「見てください、このボディ~!やっぱり液晶テレビはこうでないといけないですよね!」


 確かに立派なテレビなのだが、不動産屋なら他にアピールするところがあるんじゃないかとも思った。


「しかもですね。なんとテレビ台も付きます!見てください、この収納力!」


 付きますっていうより、前の住人が置いていっただけなんだろうな。

 ハカセは興味がないといった感じでキッチンに向かった。


「一ノ瀬様、さすがお目が高い。こちらの冷蔵庫はですね、中の食品がスマホで管理できる最新機種です。内蔵されたカメラで数量を確認して連携するので、専用アプリでほらこの通り!」


 だが、ハカセの反応はイマイチだ。

 それはそのはず、ハカセは料理が超絶下手だから。


「ねえ、タカタさん。この水道は飲める水が出るの?」


「もちろんですよ。日本ならどこでも水道水が飲めるじゃないですか」


「そうなんですね。俺たち、海外で育ったので未だに信じられなくて……ところで、蛇口をひねったらコーラが出るように改修できませんか?」


「えっ、コーラですか……」


 そう言うと、タカタさんは難しい顔をした。

 どうやら、俺の注文は日本では難しいらしい。


「イチロー、何バカなことを言っているのよ。そんな事できるわけないじゃない。すみません、タカタさん。この人、舌が貧乏なんですよ……」


「俺は毎日コーラが飲みたいんだよ!」


「普通に冷蔵庫に入れておけばいいでしょ。恥ずかしいからこれ以上バカなことを言わないで。ところでタカタさん、水道水の純度ってどのくらいだか分かります?」


「純度と申しますと?」


「水中に溶解している有機物、生菌、微粒子の量が気になったもので」


「いや……そこを気にされるお客様は初めてです」


「じゃあ、半導体の製造には使えそうもないわね……」


 ハカセさん、自宅で何をするつもりですか?


「半導体はさすがに無理ですが……。弊社のサービスでウォーターサーバもやっておりまして、富士山の麓から採れたおいしい天然水を定期便でお届けすることもできるのですが、いかがでしょうか」


「天然水ですか……コーラよりは体に良さそうですね」


「もちろんです。毎月の支払いは水代だけですし、なんと初期費用と水代が2ヶ月間無料となっています。しかも、持ち運びができるようにタンブラー2本もお付けいたします!」


 ハカセはノートパソコンを開いて、真剣に調べ物をしている。


「天然水より水道水の方が安全基準は高いじゃない。やっぱり要らないわ」


「そうですか……」


 ガックリ肩を落とすタカタさん。

 こんなやり取りを各部屋ごとに行っていたら、あっという間に夕方になっていた。


「こんな素晴らしい豪邸が今なら、なんと1億9800万です!」


 俺はハカセをチラっと見た。

 どうやら俺と同じ気持ちのようだ。


「じゃあ買います。支払いは一括で」


「えっ、一括ですか」


「はい。一括で」


「ありがとうございます。ではサービスでウォーターサーバーを無料でお付けしましょうか!」


 俺たちは顔を見合わせて同時に発言した。


「要りません」

「要りません」


 やはり俺とハカセは息があっているようだ。

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