エピローグ 0-4
「月日が移り変わるのは早いもので、あなたがこの合聖国を救ってから……」
あの日。アイリスは間違いなく死んだ。
建国の父ラザルスから授かったとかいう、とんでもない魔導術を使ったアイリスは、レ=テウとクリストファー先生が引き起こした超常的魔導現象……聖大陸全土の破壊を「書き換える」ために寿命を使い果たした。
そして奇跡が起きた。
レ=テウら革命派が仕組んだ『世界同時革命』——それに連なり学院州周辺でおこなわれた「あらゆる物質的変化」が、すべて革命前、いやクーデター前に戻ったのである。
換言するならば、死人は生き返り、街や品物はいっさいが元通り。核攻撃を受けた合聖国艦隊と乗組員すらも、異世界から帰ってきたかのように洋上に浮かんでいた。
ちなみに物証がことごとく消え失せたため、犯罪行為は立証されなかった。州軍クーデターも革命派の暴動も不問に付された。
しかし記憶だけが、実際に起こったものとして残った。アイリスの『奇跡』をもってしても、人々の受けた心の傷は元通りにならなかったのだ。
しかし記憶の残留は、思わぬ副産物を産んだ。
学院州の権力政治の是正と、漸進的な公正化である。
ユーリア・エイデシュテット州知事辞任後に行われた、学生に信を問う学院州総選挙。
与党トップと州知事となったラジェシュ・クリシュナ・スィンは郊外区幹部メンバーを中核として政権を組閣するも、学院州全体の行政運営において旧政権下の既存エリート層の協力を必要とした。しかし彼らへの牽制として、スィン新政権は革命派を合法政党として認めて連立与党とした。
野党勢力となった既存エリート層は、政権転覆の意思と実力を示した州軍一派や革命派への恐れから大幅な譲歩を行いつつも、スィン新政権には行政ノウハウを提供して存在感を維持。
合法政党となった革命派は、記憶上での革命の生々しさから与野党双方から警戒され政権や行政の主流からは遠ざけられるものの、与野党政治の監視役としての立場を確立した。
かくして学院州は今日を迎えた。
すべてはアイリスの。犠牲のもとに。
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