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日は変わって深夜の、行政区の一等地にそびえ立つ高級ホテル。大ホールのパーティー会場。
ホワイトは単身、学院州の有力者が一同に集う交流会に潜入していた。領事長の資料にあった疑惑人物オルフォンソも招かれているパーティーである。
「いやあ、エイデシュテットダム受注の件ではお世話に……」「難民バブルの次は軍需がアツいんです! 爆撃機の生産ラインが——」
確かな家柄の学生議員や登り竜の経営者、幹部級エリート実務委員や他州有力政治家の師弟まで。各々が繋がりと利益を求めるべく、仕立てのいいファッションに身を包んで歓談が交わされる。
人を踏みつけて儲ける話はさぞ楽しいだろうなと、フォーマルスーツ姿のホワイトは豪華な食事もそこそこに端の席から眺める。もしも別行動のアイリスが居たら「出された食事に貴賎はなかろう!」言ってもぐもぐと食べ尽くしていたのだろうが……。
いつ来ても俗物まみれだな、と。ホワイトは辟易する。
合聖国の民主主義は主権者の投票によって議員や政策を判断するシステムだが、実際に力を持っているのは富豪の献金者と根深い利益団体だ。彼らは莫大なカネを持ち、ヒトとモノを組織単位で動し、秘密の情報を一手に握っている。
その手の強者こそが己の利益のために政治を動かしていく原理は、若者だらけの学院州においても例外ではない。参加者は皆大学生やそこらなのに、やっていることは強欲な老人や中年たちとなんら変わらない。
——次世代を担う若者たちには、老いたしがらみから解き放たれた
そんな理想をもとに学院州を設立したのは合聖国建国の父ラザルスだが、偉大な彼はあの世で何を思うのか。
いわんや、その彼を敬愛するアイリスは。今の学院州をどう見ているのだろうか。そしてそんな連中と絡まねばならない州軍司令官のユーリアは……。
「で、例の新型爆弾開発は……」「万事問題なく。合聖国防衛のみならず
大ホールの最上級の調度品。贅を凝らした世界各国の料理。美男美女による余興の芸能演出。参加者同士で時折行われる壇上でのダンス。この世の栄華を極めたような煌びやかさ。ロビー活動や資金集めの都合そうなるのだろう。カネと権力を独占したい連中が必死になるのもうなずける。
しかしホワイトは訝しむ。オルフォンソ下院議員の姿がまるで見えない。
「オルフォンソ議員ですか? 一時間ほど遅れて来られるようです。なんでも飛行機の運行スケジュールが変わった影響で……」
パーティーの受付係から説明を受けたその時。
途端に照明が消えた。
パーティー会場が漆黒に包まれる。
その一瞬後、悲鳴がつんざいた。同時に雷のごとき電流がはじける。壇上のだれかの腕や脚が複数あらぬ方向に飛び跳ねる。周囲は何事かと慌てふためく。
しかし。壇上から遠く離れたホワイトは眉ひとつ動かさず敵を捉えていた。
凶行の主は黒ローブを纏った乱入者だ。大戦ものの
わずか数秒で。黒ローブは的確に、壇上の有力者を不具にしていく。ボディーガードはすでに気絶しているか木偶同然かのどちらか。黒ローブは殺しは一切せずに標的以外は無視。どうせ歯向かってくる腕前と度胸をもつ〈魔導師〉など、あぶく銭と享楽にフヌケきったこの場にいないとタカを括っているのか。だが、この場にはホワイトがいた。
「——おい。いきなりなんなんだ、黒ローブのあんた」
ホワイトは手近な食器のナイフに稲妻を纏わせ、瞬身の速さで黒ローブの凶行に割って入った。
〈
稲妻迸る銃剣とナイフ同士が、パーティー会場の中心で眩く鍔迫り合った。相手の手慣れた銃の扱い。合理に徹したやり口。間違いなく歴戦軍人のそれ。相対する雷電の魔導力も〈魔導師〉として一線級だ。
ホワイトは凶行の主を確信した。まだパーティーの受付係が言っていた、飛行機の遅れだかでホテルに辿り着いてないはずの男を。
「——いっそ殺してやらないのか? 元合聖国陸軍王州派遣軍准将のオルフォンソ下院議員」
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