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四章 動乱の兆し
1
レ=テウら〈革命派〉との遭遇戦から数日の、とある古アパートの一室。
「あれから数日。表立った動きなし……か」
ホワイトはぎしりと軋むパイプ椅子に腰掛けて、窓辺からの景色を見る。
からりと晴れた冬空に、ときおり窓を通る風がひんやりと心地よい。ホワイトは文庫本を読みながら、いっときの平穏の余韻に浸る。
なべて世はこともなし。そんな中。
「じゃあ次、ラジェのターン」
すっかり回復したアイリスが、トランプに似た札をにらんでテーブルにつく。
ホワイトも詳しくは知らないが、郊外区の数学科院生が考えたという遊びで「トレーディングカードゲーム」というらしい。数百種類もある多様なカードから選んだ四〇枚で、自分だけの「デッキ」を組んで戦うのだとか。
そして対戦相手は。
「いいのかアイリス? それくらいの盤面だったら俺の逆転圏内だぜ?」
青ジーンズと黒パーカー姿の大学生だ。
ホワイトとは旧知の仲。名前はラジェシュ・クリシュナ・スィン。
ラジェは目立つ男だ。肌は浅黒く、もじゃもじゃとした黒いくせ毛。背丈はホワイトよりも頭半分高く、彫りの深い顔立ちは精悍でもある。長いまつ毛に、二重の目元とくっきりとした鼻筋。もみあげ。
そもそもこの一室はラジェの下宿先だ。狭くて古くて、服が散乱して小汚いあたりが等身大の男子大学生の一人暮らし部屋らしい。
「なーんだよアイリス。俺の顔ジロジロ見てさ」
「ん。まあ仮にも在野勢力のリーダー張って、数十万人単位で支持者がおるだけはあるんやなって。しゃべりも服装も軽いけど」
「絶対けなしてるだろソレ。それじゃ……〈シヴァニック・トリシューラ〉でアタック、
「通らん。手札から〈祖北の黄帝ヌルハチ〉一枚発動宣言。召喚」「え? 握ってんの?」「当たり前やろ。そしたら登場時効果でトリシューラ手札戻し――」
得意げな顔のアイリスと、うーんと頭を抱えるラジェ。その後のいくらかの攻防を経て、アイリスが勝ったようだ。
それにしても。会って数日ほどなのに二人の会話は親友のようだった。よほど波長が合ったのだとホワイトは思う。
ラジェと能天気に遊ぶアイリスの横顔。
「で。ラジェはなぜシヴァ単使っとうと?」
「イラストがいいのと、打点が強いからな~。街のキッズたちとの真剣勝負で握ってた」
「なるほど。やけどシヴァ単は前環境から厳しかろ。流行りのヌルハチカウンターに不利すぎる。どうしてもシヴァ好きなら除去や
「アイリス、おまえカード強いし詳しいなあ。二年間ずっと引きこもってたって話じゃ」「ひまやけん大会だけ出とった。変装と偽名で」
「そーいや最近くそ強い女子中学生いるって界隈でウワサになってたけど……、あれアイリスだったのかよ」「ん。ヌルハチカウンターはわたしが育てた」
アイリスは「ふむん!」と鼻息。ご満悦のようだ。
ちなみに、アイリスが時折郊外区に出かけていたというのはホワイトにも初耳だった。
「そんなに面白いのか? そのカードってやつは」
ホワイトはアイリスたちの会話に口をはさんだ。カードの話題をとっかかりにアイリスのことが知りたかったからだ。
「面白いにきまっとろう」
アイリスの答えはまじめだった。このアイリスが入れ込むのだから、ただイラスト付きの紙を見せ合うだけの遊びというわけでもなさそうだ。
「いったん対戦卓につけば、皇帝も民草もひとしく好敵手になる。よって世が世なら一生顔を突き合わせんはずのわたしとラジェも対等」
「最後らへん余計なんだよな。わざと言ってる?」
「わざとかもしれん」
アイリスはラジェに絡みを入れる。やっぱりウマが合うらしい。
「……そろそろ外出る。こんなとこおったら、わたしの体がラジェの体臭になる」
「俺の体臭で悪かったな! ……この部屋がアレなのは言い逃れできねーけど」
ともあれ。ホワイトたちは外に出かけることになった。
「郊外区の〈
「まー、雑多さと人間の多さがウリの場所だからなあ」
ホワイト、アイリス、ラジェの三人が歩いているのは郊外区の中心通り〈
あるところは無数の改造コンテナが積み上がり、あるところにはシロウト仕事な配電線の束が鬱蒼としたツタのように伝っていて、あるところは継ぎはぎな鉄筋コンクリートのアパート区画が雨後のタケノコのごとく建築されている。商店街の大通り前には、多種多様な言語のネオン看板が一面に立ち並ぶ。果てのない膨張は現在進行形で、クレーンやトラックと作業員が、数多の住人と共にせわしなく行き交う。
さしずめ、違法建築の集大成にして通過点。
もともとは大規模開発が想定されなかった狭い盆地ながらに、ゆうに三十万人はくだらない若年難民がひしめいた結果だ。
郊外区イコール若年難民政策の失敗例。それが行政区の認識である。
しかし〈
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