世界大戦史 


      †


[聖暦]一九五〇年。


 環人類大陸ユーラシアの覇者、帝政圏構成諸国ケーニヒライヒは周辺諸国への侵攻を開始。

 帝政圏の盟主である帝政ゲルマニアは圧倒的な軍事力――精強な魔導戦力と新型量産兵器を融合させた電撃作戦によって、足並みの揃わない王州諸国をまたたく間に瓦解させた。


 対帝政要塞線マジノ・ライン、奇襲により無力化。

 低地帯三諸邦ネーデルラント、わずか半月で降伏。

 北洋半島諸国スカンジナビア、全海防艦隊を喪失。


 すべてが想定外の事態であった。あらゆる国家が無関係ではいられなくなった。

 ゲルマニア有利とみた教皇国ヴァチカンは帝政側へと寝返り、国名を帝政ローマへと改称。王州随一の大国であったはずの共和国マリアンヌも戦火拡大を恐れ、花の都パリを無血開城。

 王州海峡を挟みかろうじて健在であった王立連邦ブリテンすらも、帝政圏の総力を挙げた上陸作戦をうけて本土防衛戦争へと突入。必死の抵抗も虚しく、廃墟と化した首都ロンドンの時計台には帝政鷲翼旗がひるがえった。

 帝政圏構成諸国ケーニヒライヒ

 その盟主、帝政ゲルマニアは無敵であった。

 新鋭の主力戦車MBTは戦場を蹂躙し、後退翼のジェット戦闘機は音速を超え、弾道ロケット弾は迎撃不能。実用化された機上レーダーは千里眼のごとく敵影を探知する。それらの最新兵器は新時代の戦争を世界に知らしめた。

 きわめつけは、数百年もの歴史を誇り、ただひとりで戦場を支配する帝政名家の〈魔導師〉たち……!

 量産兵器ですら埋め難い戦力差に、唯一無二の魔導戦力がとどめを刺す。世界はこうして、専制国家の手に落ちるかに思われた。


 しかし、いまだ戦火の及ばぬ大国が在った。

 大聖洋をへだてた聖大陸の、自由の国――合聖国USSである。

 ラザルス・レイら建国の英雄たちによる独立宣言以降、王州諸国ユーロピアに干渉せず我が道をゆき、二世紀もの平和を享受しながら移民を受け入れ、繁栄を遂げ、無尽蔵の資源と世界随一の基礎工業力を有する眠れる超大国!

 合聖国は戦った。国家の自存自衛のために。人々の幸福のために。自由と民主主義の信念のために。

 すべてを懸けて、王州諸国の救援へと赴いた。

 そうして……敗北した。多くの未来が奪われ、かつての誇りすらも失い、惨めに聖大陸へと逃げ帰る。


 されど人の歴史は続く。すべてを失った人々がなお生き延びる日々も。戦場でついに死ねずむざむざと生き残ってしまった英雄たちの戦いも。次の戦争へと至る、つかの間の平和も。

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