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 ひるがえって、夜の地上。

 合聖国南部大陸最大の学生街、ラザルス=グランデ。下は名門幼稚園から上は難関私大まで学び舎のすべてを詰め込んだ学究都市は今夜も眠らない。

 昼夜問わず勉学や研究に勤しむ学院区画を中心に、九〇万もの学生たちの生活と消費文化を支える百貨店、ブティック、レストラン街。乱立するネオン看板が、文明の電光で夜闇をかき消す。娯楽を求めてストリートを行きかう学生たち。そびえ立つシティ・センターの摩天楼と雑多な若者が居を構えるダウンタウン……‼

 ここで学んだ世代は、かつての青春をこう懐かしむのだ。


「この都市は、学生ならなんでもできたよ」「州知事は学院議会で学生から選ばれる」「仕事のたぐいは高校生以上がやるんだが、小学生の議員もいたし中学生の官僚や判事もいた」「シェフから警官まで皆学生」「小中高の教師だって大学生。家庭教師の延長さ」「書物に潜るもよし。商いを求めるもよし。魔導を究めるもよし」「成功者はここで切磋琢磨したものだ」――と。


 だが、[聖暦]一九五七年、冬。

 かつて栄えたエリート都市も、いまや暴力と混沌に堕ちていた。


『――デモ隊に告ぐ! ただちに、解散しなさい!(拡声器での警告)』

『――我々は、ラザルス州、学院警務隊である。諸君らの集会は、公の秩序を乱す重大な法規違反であり……(拡声器)』


 学院州の州都「ラザルス=グランデ」の象徴、リバティ・ストリート。

 若年難民の群れは、怒り猛っていた。当初の難民抑圧反対デモから膨張、人だかりは数万に達する大波となった。そして、これに対抗するのも同じ若者の警務隊員で約一〇〇〇。大盾と警棒をかまえたプロテクター装備の横陣が、デモ隊がめざす官庁街中枢――学院州議事堂への大通りに立ち塞がる。

 状況は、一触即発。


「「通せ! 通せ!」」「「州知事に会わせろ!」」「「「「(数万の叫び)‼(もはや意味を成さない地鳴り)‼」」」」

『――繰り返す! ただちに……! ただちにっ! 解散しなさい!』


 警務側はたまらず、催涙弾を放った。

 一発の弾が、最前列の少女を襲った。

 弾は合板を容易く突き破る威力で、頭に直撃。少女は倒れる。仲間が駆け寄る。けれど彼女の息はなく……。

 戦いの火蓋がきられた。

 若者はたちまち暴徒化し、行動のタガが外れる。「ひっこめ警務!」「エリートの手先め!」投石や火炎ビンが荒れ狂う。「無能な州知事は退陣しろ!」「カネ持ちとつるむだけの汚職野郎!」「おれたち難民をドレイ扱いでっ」警務側も放水車で抑えようとするも多勢に無勢。「やっちまえ!」重装備の隊列がいよいよ破られる。「くたばれっ!」暴徒は津波となって官庁街になだれ込んだ。

『合聖国学院州。自由と学問の府。』『ラザルス・レイ。偉大なる革命家にして建国の英雄』スローガンの横断幕が引き裂かれる。「「つぶせっ!」」孤立した警務隊員が袋叩きにあう。「「燃やせ!」」官庁の公用車が暴徒にひっくり返される。「「殺せ!」」傍目にわかる。収拾がつかない。「みんなっ! いまの我々は無敵だぁッ‼ いまこそっ! このまま議事堂に突き進もうではないかぁっ!」リーダー格の学生が叫ぶ。議事堂まで約三〇〇メートル。群衆の奔流が、血気と怒号が、最後の大通りへとなだれ込む。その時。

「あれは、戦車か?」

 学生らは身構えた。

 と同時に、かッ! と投光器の眩い光に晒された。


 

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