我が家の猫は、い・け・る・口

綾風 凛

第1話  我が家の猫は、い・け・る・口

 我が家では、猫好きな父が猫を飼っていた

 雉白の雄猫が1匹、真っ白な雄猫が2匹、この3匹が先住猫だ

 父の死後に捨て猫の三毛猫を飼ったが、子猫で雌だったので仲間として受け入れられた

 猫は皆仲良しだったが、白い雄猫のロクは喧嘩好きだった

 身体が小さく気も強くてやきもち焼きで、気に入らないことがあると、他の猫に喧嘩をふっかけるヤンチャな猫だ

 そして、変わった趣向をしていた

 ある晩の主人の晩酌は、赤ワインだった

 夏の暑い夜でワインは冷えていなかったので、グラスに氷をいれて飲んでいた

 適量を飲み終えたグラスには、溶けかけた氷とワインが少し残っていた

 それを見ていたロクは、ジャンプしてテーブルに飛び乗った

 そして、ワイングラスに前足をいれて残っていたワインを舐め始めたのだ

 一瞬驚いたが、水が欲しくて氷をなめているのだと思った

 暫くするとロクは「ああ、美味かった」と満足したように、テーブルから床に下りて口周りを前足で舐め始めた

 その後もロクは晩酌をしていると、テーブルに乗りお酒を盗み飲みするようになった。

 気がつくと、ロクが晩酌の邪魔をするようになっていたのだ

 でも、ビールは苦手のようで舐めた後、鼻にしわを寄せて渋い顔したが、その顔はとても可愛いかった

 ロクは発泡系の酒は苦手だとわかり、意地悪をしてビールやスパークリングワインを飲むこともあった

 ある晩、葬儀でいただいた清めのお酒の日本酒を飲んでいた

 ロクはそれを見てテーブルに飛び乗り、グラスに顔を入れて日本酒をピチャピチャと飲み始めた

 思わず「日本酒も好きなの?」と尋ねると

 ニャーとも泣かずに、テーブルから飛び下りフローリングの床に座り、口周りを前足で舐めていた

 落ち着いて晩酌ができないので、別のグラスにワインを入れて床のロクの前に置いた

 ロクは前足も口も出さずに、主人あるじのグラスに目掛けてテーブルに飛び乗り邪魔をする

 ある日動画を取る為に、グラスに氷を入れずにワイン多めに残した

 ロクは素早くテーブルに飛び乗った

 グラスに顔を入れて、ピチャピチャと舌で音を立てながら飲み始めた

 ワインが少なくなると飲み易くする為に、前足でグラスを自分の方に引き寄せ、下の方に残ったワインを前足につけて舐め続けた

 やがて満足すると、その場で前足を使い「ごちそうさま」とばかりに丁寧に口の周りを舐めた

 やっと撮れた動画は、猫好きの知り合いに見せたが、とても好評だった


 動物病院に行った時には、獣医師にをその動画を見せた

「晩酌の邪魔をするので、本当に困るんですよ。猫はお酒飲んでも大丈夫ですか」と尋ねた

「少ない量ですから大丈夫ですよ。それに適量で止めるのは人間より偉いですね」獣医師は笑顔で答えた

 でも、急性アルコール中毒になったら困るので、ワインを飲むことはやめてビールにした。

 それから、ロクはテーブルには乗らなくなった


 今では、ロクを含めた先住猫達3匹は虹の橋を渡った。

 ロクはあの世でも、お酒が好きな父親の晩酌の相手をしているかもしれない

 今でもワインを飲むと、グラスに少し残して片付けないで寝ることしている

 ロクが、こっそりあの世から飲みにくるような気がするから・・・








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我が家の猫は、い・け・る・口 綾風 凛 @kuzuhahime

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