こころのすみか、いえ

サカモト

こころのすみか、いえ

 招かれて、友人宅を訪れた、新築の家だった。

 せっかくなので家の中を見学させもらった。家の機能も家具も新しい。でも、ひとつくだけ、古いものがあった。

 木製のドールハウス。

 外装はすっかり剥げていた。大人が一抱えくらいの大きさで、観音開きになって、開けて中を覗けそうなつくりになっているけど、いまは閉じられており、中が見えない状態にされている。

 じっと見ていると、友人が察知して教えてくれた。

「これはおばあちゃんの持ち物だった」

 おばあちゃん。そういえば、友人の祖母は少し前に亡くなったと聞いた記憶がある。

「このドールハウスは、おばあちゃんが五歳の頃からずっと大事に持っていたみたい。どんなときも、これだけは、なにがあってもおばあちゃんは手放さなかった」

「五歳、そんなに小さな頃からずっと持ってたんだ」

「うん、おばあちゃんは言っていた、このドールハウスが、心の住処だったんだって」

「心の住処」

「おばあちゃんは大学に入るために上京するときも、結婚したときも、それから何度家を引っ越しても、これは必ず持って回った。手放さなかった。あ、そうそう、火事のときもこれを持って逃げたって、けっきょく、火事にならず、ボヤで終わったみたいだけど」

 なにがそこまで大事だったのか気になった。

 すると、その友人はこちらの好奇心を察し、言った。

「おばあさんは生きている間、このドールハウスの中を誰にも見せなかった。中がどんな風になってるか、うちの母さんもまったく知らなかったし、もちろん、孫のわたしにも見せてくれなかった。このドールハウスは、いつもおばあちゃんの部屋にあって、部屋には鍵がかかってた。さらにドールハウスの窓はいつも絶対にカーテンがかかってて、鍵もかかって、中はひらけないようにされていた。かりに、事故でも、偶然でも、中は見ることはできなかった」

「じゃあ、このドールハウスの中を見たことないの?」

「いや、おばちゃんが死んだあとに、すぐに中を見たの。鍵をアレして」

「で、なかは」

「スゲェお金が入ってた。現金が、ぎちぎちに」

 そう答え返され、少し考えてから言った。

「その後、そのお金は」

「そのお金で建てたのが、この家だ」

「ああ、だから、新築、なのか」

「そう、だから、まあ、新築だ」

 ぽんと、問いかけると、ぽんと返してくる友人。

「そういえば、さっき、おばあちゃんは、五歳から大事にしてたって言ってなかったっけ」

「五歳からため込んでいたのね、お金を大事に」

「しかも心の住処だって」

「実際は金の住処だったのさ」

 友人は腕を組み、そう言い放った。

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