雨宿りのオープンハウス

悠稀よう子

雨宿りのオープンハウス

 不二美奈子ふじみなこは雨宿りのために立ち寄った不動産屋で、新築マンション「フューチャーレジデンス」の張り紙広告に釘付けになっていた。彼女の明るい茶色のボブカットは湿気で少しくせっ毛だが、その活発な性格は雨天にも負けず、彼女の大きく輝く茶色の目は新しい発見にワクワクしていた。カラフルなスカーフを首に巻き、ポップなトップスにタイトなジーンズを合わせる彼女のスタイルは、彼女が持つ無尽蔵のエネルギーと好奇心を物語っていた。


 その時、店主の冨貴島守夜ふきしまもりやの穏やかな声が彼女を現実に引き戻した。


「そのマンションに興味がありますか?張り紙に触れれば、仮想空間で内見できますよ。」


 身長が高く、すらりとした守夜は、黒髪をきちんと整え、薄く顎鬚あごひげを生やしたその成熟した外見と、深いグレーのスーツが彼のクールな雰囲気を一層際立たせていた。彼の静かながらも強い眼差しと落ち着いた話し方は、どんな状況でも冷静さを保つ深い知識と経験のある人物であることを示していた。


 美奈子は守夜の提案に心惹かれ、躊躇ちゅうちょすることなく張り紙に手を伸ばし、「フューチャーレジデンス」の仮想空間に立った瞬間、彼女はそのモダンで洗練された内装に息をのんだ。しかし、その完璧さの裏に、何か不気味なものが隠されているような気配を感じた。


 守夜に案内されながら、美奈子の不安は増すばかりだった。彼は壁に手をかざし、隠された扉が現れたその向こうには、「フューチャーレジデンス」に関するすべてのデータが保存されている小さな部屋があった。特に「居住者情報」のセクションが目立っていたが、そこに記されていた名前は入居後わずかな期間で「居住者不明」となっていた。


 守夜の説明から、美奈子はこのマンションが住人から何かを奪っていたことを理解した。不安や恐怖を感じた瞬間、そのエネルギーがマンションに吸収され、結果として人々が消え去っていたのだ。


 不安の渦が美奈子の心を包んだその時、彼女は冷たく、しかし確かな守夜の手を静かに握りしめた。彼女の声は震えていたが、ゆっくりと歌を口ずさんだ。メロディは優しく、彼女自身の不安を鎮めるかのように、空間に溶け込んでいった。



 風がささやく 勇気の言葉

 雨が洗い流す すべての痛み

 歩みを止めず 前を向いて

 僕らの夢は この手の中に


 不安な夜を越え 旅に出よう

 心の灯をともす 光を探して

 一緒に歩んだ その先には

 温かな光が 僕らを照らす



 守夜の手を握りながら歌うことで、美奈子の心は少しずつ落ち着きを取り戻し、仮想空間の束縛から解き放たれる感覚に包まれた。


 そして、美奈子は現実世界へと戻ることができた。外へ出ると、雨はすでに止んでいた。空は雨上がり特有の清潔感を帯び、地面からは潤いを含んだ土の香りが立ちのぼっていた。彼女は守夜から聞いた最後の言葉を、心の奥深くに刻みながら、再び雨の中を歩き始めた。


「完璧な住まいが、必ずしも幸福を意味するわけではありません。」


 美奈子は「フューチャーレジデンス」の謎を解き明かしたが、彼女の心には新たな疑問が残されていた。


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執筆の裏話

グッドエンド派?orバッドエンド派?

https://kakuyomu.jp/users/majo_neco_ren/news/16818093073160317197

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雨宿りのオープンハウス 悠稀よう子 @majo_neco_ren

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