第14話 好きな人のお母様とお茶することになったけど?
「すまないね。私も同席してしまって」
「い、いえ! 大丈夫です!」
白取のお母様と今、白取の隣に座っている。これで緊張するなという方が無理である。
「さて、改めて私は白取小鷺(こさぎ)という。小鳩の母だ。よろしく頼む」
「よよよよよよ、よろしくお願いいたします!!」
好きな人のお母様によろしくされてしまった。
「お母さん。彼は横木泊くんだよ。ボクの友達」
「はい……俺は小鳩さんのお友達です……」
「あれ? なんで横木くんちょっと落ち込んでるんだい?」
別に落ち込むようなことはない。ほとんど接点のなかったところから、友達と言ってもらえたのだ。むしろ、上々と言えるだろう。
とはいえ、やっぱり友達と言われるのも複雑な気持ちになるわけだ。喜んでもいいのに、素直に喜ぶのも業腹――という複雑な乙女心を理解していただきたい。
「横木泊くん」
「あ、はい。横木泊くんです」
お母様に名前を憶えられてしまった。どうしよう。
「友達と言っていたが、どういう繋がりなのかな」
「ど、どうとは……?」
「私の記憶が正しければ、横木くんは小鳩と同じクラスではないだろう? 部活動も違う。小鳩は部活に入っていないからね」
「……」
言われてみればたしかに。俺と白取に接点がなさすぎる。お母様としては、どういう経緯で知り合ったのか気になるといったところか。
「保健室で添い寝しました!」
とは言えないよなぁ。ここで俺が困っている気配を感じ取ったのか、白取が「友達の友達の紹介でね」と助け船を出してくれた。
「そ、そうなんです! 俺の友達が白取――小鳩さんと友達で、その繋がりで俺も仲良くさせていただいて……」
「ふふ、そうか。ぜひこれからも娘と仲良くしてもらえると、親としては安心できるよ」
「は、はい」
なんというか不思議な雰囲気のある人だ。まるでこっちの嘘は全部見透かされているかのような。そんな印象すら覚える。しかし、特になんの追及もされない。
分かっていて泳がされている気がする。
お母様は綺麗な所作で、微笑を浮かべたままテーブルのハーブティーを口に運ぶ。
「小鳩。友人が多いことは、とてもよいことだ。大事にするといい」
「お母さん。それ、ボクのだよ」
「……」
お母様は表情を固めたままティーカップを置いた。
泳がされているのは俺の気のせいだな。間違いない。
「ところで小鳩。最近、稽古の調子はどうだ」
「あーえっとぉ……」
そういえば、2人とも板の上に立つ者だったか。
「近頃は忙しくてあまり見られなかっただろう?」
「えっと、今はちょっとお休みを……」
「そ、そうだったか」
おや?
「ごめんね……さぼっちゃって」
「いや、無理をすることはない。体を休めるのも稽古だ」
「うん……」
おやおや?
なんだか気まずい空気が流れているぞ?
白取はお母様に複雑そうな視線を送っているし、お母様もお母様でバツが悪そうだ。
「ふむ」
俺は顎に手を当てて「ふむふむ」と意味ありげに頷く。
なるほど、どうやら白取はお母様となにやら確執のようなものを抱えているらしい。
ふと思い出したのは烏丸先生の言葉。白取の不眠の原因は、精神的な問題からだと聞いた。
もしも、それが事実であるならば、この確執が不眠の原因だったりするのだろうか?
「「……」」
2人ともどことなく気まずそうである。やはり、可能性としてはかなり高い。高い気がするが――。
「うん」
俺は天井を仰ぎ見ながら遠い目をする。
さすがに部外者の俺が、おいそれと立ち入っていい問題ではない。仮に白取の不眠の原因が、俺の想像通りだったとしても、土足で踏み込めることじゃない。
うん。
とても困ったことになったぞ。
白取のために頑張ろうと思った矢先に、なかなかベビーな匂いがする家庭問題が立ちはだかるって……。
「いや、どうしたもんかねぇ……」
言いながら口にしたハーブティーは、すっかり冷めてしまっていた。
みんなの白取さんなら俺の隣で寝てるけど? 青春詭弁 @oneday001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。みんなの白取さんなら俺の隣で寝てるけど?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます