第13話 お母様が出現しましたけど!?

 放課後。


 「おまたせ」


 白取と校門前で合流。ふと、俺は脳裏に不安が過る。


「今更だが、大丈夫なんだろうか」

「なにがだい?」

「ほら、白取ってファンクラブあるじゃん。俺が白取と2人で放課後遊ぶなんて知られたら……俺は後ろから刺されるかもしれない」

「大丈夫じゃないかな? 少なくともそうなったら、ボクが君を守るさ。だから、君はボクに守られているといい」

「きゅんっ……かっこよすぎて辛い……」

「???」


 さすが王子様である。なんというか眩しい。とてもじゃないが直視できない。


 そんなこんなで白取と一緒に最寄り駅に向かう。


「そういえば、白取はどこ住みなんだ?」

「ボクはここ住みだよ?」

「へえ、じゃあ地元一緒だったのか」

「そうなの? 知らなかったなぁ」

「幼稚園か小学校か……中学が一緒だったりしてな」

「それはないんじゃないかな。君みたいな人がいたら、目立つと思うから」


 それは俺の台詞である。俺だって白取と同じ中学だったら気がづかないはずがない。もしそうだったら、今頃片想い5年目に突入していたことだろう。


 にしても――。


「なんだあのイケメン……」

「かっこいい……好き……」

「神々しい!」


 白取がめちゃくちゃ目立っていた。


「白取、すごいな。道行く人に平均3度見はされてるぞ」

「うん? そうかい? いつもは平均5度見されるんだけどね。比較的に今日は見られてないかな?」

「5度見」


 やっぱり白取はすごいなぁ。

 と、俺は思った。


 ふと、白取の横顔を見る。相変わらず整った顔立ちをしている。とても美しいEラインである。もはや芸術の域に達していると言える。


 なるほど。悪友の宇田川ではないが、ここまで美しいとついつい彼女の美しさを事細かに描写したくなる。だからと言って、スタイルにまで言及する気にはならないが。


「うん? どうかしたかい?」


 と、白取は俺の視線に気づいて、朗らかな笑みを向けてきた。俺はそれにたいして「いやなんでも」とだけ返して、進路に視線を戻す。


 俺は改めて「すごい人を好きになったもんだ」と内心で思った。


 それからてれてれと2人で並んで歩き、到着したのは駅前の通りからやや外れた路地。そこにある小さな喫茶店であった。


「ここよく来るんだ」


 白取の行きつけらしい。


 白取に続いて店内へ入る。ちりんちりんと小気味のいい鈴の音を背に、ぐるりと店内を見る。


 第一印象は「白取に似合うお店」であった。

 カウンター席とテーブル席があり、暖色の灯は店内に仄かな暖かみと落ち着き、さらにゆとりを与えている。


 漆塗りされているであろう木製のテーブルや椅子からは、どことなくアンティークな雰囲気が感じられる。俺はこういったことに造詣が深くないためよく分からないが。


 ただ、店全体の雰囲気はたしかに伝わってきた。だからこそ、「白取に似合うお店」だと思う。


 カウンターとかで白取がコーヒー片手に脚組んで座っていたら、一目惚れすること間違いなしである。


「この奥まったテーブル席がボクのお気に入りなんだ」


 白取の向かいに腰を下ろすと、彼女が嬉しそうにそう言った。


「ここのハーブティーはとても落ち着くんだ。1人でのんびりしたい時とか、ちょっとした息抜きによく利用するんだ」

「へぇ~。コーヒーとか飲まないのか?」

「……」

「え、なぜに沈黙?」

「わ、笑わないかい?」

「笑う」

「じゃあ、言わない」


 白取がむっとした表情で口を閉ざしてしまった。


「分かった。笑わない」

「……実は苦いの苦手なんだ」

「……」


 なるほど。

 どうやら俺は助かったらしい。カウンターでコーヒーを飲んでいる白取が見られないのだから。


 これで一目惚れして、告白して、玉砕することはなくなった。非常に助かる。


「(´・ω・`)」

「え、なんで横木くん顔文字みたいな顔になってるんだい?」


 閑話休題。


 とりあえず、白取おすすめのハーブティーを注文する。


「横木くんはハーブティーって飲んだりするかい?」

「いや、経験ないな。普段は水かお茶ばっかりだしな」

「それはそれで健康的だと思うけれどね」

「あとはコー〇とサイ〇ーとエナドリ」

「急に不健康だ」


 俺は肌寒さを感じて、少し肩のあたりを擦る。どうやら俺が座っている場所は、ちょうどエアコンの風が当たるポジションなようだ。


 と、そこでおもむろに白取が立ち上がったかと思えば――。


「ごめんね? 普段は1人で利用しているか気づかなかったけれど、ここの席は少し冷えるようだね」


 白取は自身の上着を俺の肩にかけてくれた。


「……」

「しばらくボクの上着をかけていなよ」


 俺は内心で「きゃっ♡」と乙女チックな悲鳴をあげておく。我ながらキモイが仕方がない。こんなイケメンムーブをされて惚れない人間はいないのである。


 控えめに言ってきゅんです。


「好きぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~」

「うん? 今なにか言ったかい?」

「いや、なんでも」


 しまった。つい声に出てしまっていたらしい。まあ、小声だったおかげで、白取には聞こえなかったようだが。


 なにはともあれ――こんなイケメンで優しくて、イケメンでイケメンな白取のためにも彼女が抱えている問題をなんとしてでも解決しなければな。


 俺は改めてそう心に誓った。


「おや? そこにいるのは……小鳩か」


 声がした。


 ちょうど俺の死角からだが、白取には見えているようで「あ」と一瞬だけ表情を強張らせた。


「っと、友人と一緒だったのか。これは邪魔をしてすまないな」


 俺は声の主を見ようと振り向く。すると、そこには絶世の美女(?)がいた。なぜハテナがついているのかというと、一瞬性別が分からなかったからだ。


 白取と似て非常に中性的な顔立ちをしている。身長もすらりと高い。だが、シルエットは女性的な曲線を描いているし、なにより胸部には膨らみがあった。


 宇田川ならばバストサイズまで分かるのだろうが、俺にはそんな真似できないし、やろうと思わない。


 さて、この人はどなたなのだろうと首を傾げたところで――。


「大丈夫だよ……お母さん」

「( ゚д゚)」


 白取の発言に俺の脳が停止した。

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