屋根裏物件

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　おいおい、大家さん。内見希望の客がいるから入らせてくれってか。俺はここを退くつもりなんざさらさらないぜ。え？　いいから、とにかく上らせろ？　冗談じゃねえって言いたいとこだが、間借りしてる身分じゃ強くは拒めねえ。しゃあない。入んな。ただ、一つだけ言っとくぜ。ここは部屋じゃねえ。俺の住居なんだ。そこんとこよろしくぅ。

　ああ、あんたが内見希望者かい。物好きだなあ。こんな薄暗い屋根裏がいいなんてよ。流行りの中二階だの、ロフトとかじゃねえんだぜ。由緒正しい日本家屋の屋根裏だ。埃だらけだし、夏は暑い冬は寒いで、結構ハードなんだよ。

　下の音はがんがん響いてくるし、俺は静かにしてるのに下のばばあが箒の柄でがんがんどついてくるしよ。借りてる身分としちゃあ、我慢するしかないってのもあってな。

　それにしても、女一人でこんな薄汚いところに住んで大丈夫なのかあ？　あんたぁこれから子育てするんだろ？　ここはちぃとばかし環境が悪いと思うんだがよう。え？　娘たちががんばるから大丈夫？　それならいいけどよ。で、ダンナはどうしたんだ？　かいしょなしで役に立たないってか。そらあ……大変だなあ。

　え？　バストイレはどこだって？　んなもんは屋根裏にはねえよ。だから家賃がうんとこさ安いんだ。俺ぁ綺麗好きだからよ。用は全部外で足す。不自由はねえな。その点、姉ちゃんは困るだろ。ほう？　わたしたちも外で済ませるから大丈夫ってか。見かけによらずタフだなあ。

　まあ、見ての通りで住めば都だ。最近、屋根裏物件そのものがうんとこさ減ってるからよ。贅沢は言えねえな。住むかどうかは大家さんと相談してくれや。ああ、大家さん。何度も念を押すけどよ。俺は絶対退かねえからな。貸すなら、俺んとこ以外にしてくれや。

◇　◇　◇

「で、どうしますか？」

「アライグマだけでも手を焼いてるのに、スズメバチにまで巣を作られたら困ります。両方駆除してください」

「わかりました！　燻蒸だな」

【おしまい】