終の住処

星見守灯也

終の住処


「ふむ、山の上か……」

「ええ、見晴らしが良いでしょう?」

 その「家」の屋上から見える景色は、絶景と言ってよかった。

 言われた通り、そこは小高い山の上だ。

 流れる川も、山裾に広がる住宅地も一望できる。

 吹き抜ける風が気持ち良い。第一印象は悪くなかった。

「ですから日当たり最高ですよ」

「確かに、日を遮るものはないな。私の力を見せるにはそれがいい」

「その通りです」

 その「家」は日の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。

 白い石で覆った壁は、いかにも偉い人が住みそうなもので好ましい。

「ここは静かですし」

 そう。住宅地の喧騒から離れ、彼らを遠くから見下ろし見守ることができる。

「緑も多いですから心が安らぎますよ」

 周辺は木々があり、心が休まるというのも本当だろう。

「それにしても、ここまで大きいものを作るのは大変だっただろう?」

「ここ、長さが百メートル超えですからね。今の時期、この地方としては破格ですよ」

 そうだろうな。

 中央は大きな「家」を好み、地方にそれより大きなものを作らせまいとしている。

 それでも、大きな「家」は憧れなのだ。

「こちらが前庭です」

「うん。広くてとてもいいな」

 前庭は四角く、平らだった。ここならお祭りだってできるだろう。

「では、一番重要なところだ。寝室を見たい」

「はい。こちらへ……」

 「家」のなかを案内されると、廊下の端に暗い寝室があった。

「ふむ。一人だし、このくらいでいいな」

「天井は高くしてありますので、寝ていても圧迫感はないでしょう」

「赤で装飾はできるだろうか」

「赤ですね。追加料金となりますが可能ですよ」

「ベッドは大きめだな」

「広く取りまして、お好みのものを手元に置いておけます」

「それは素晴らしい」

「泥棒避けだって、バッチリですよ」

 なるほど。思った以上に良い物件だった。

 気に入らないところもないわけではないが、これ以上は望めまい。

「きめたぞ、ここを終の住処とする」




 それから千五百年。

 その「家」は新しい家を建てるために取り壊されそうになっていた。

「ここは古墳――前方後円墳と思われます。ですから発掘調査が必要です!」

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終の住処 星見守灯也 @hoshimi_motoya

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