千ヶ崎真央の誕生日

おめがじょん

千ヶ崎真央の誕生日



「皆ありがとー。やっぱ誕プレは箱を開ける時が一番楽しいよね」


 夕方を迎え、人気のない東京魔術大学の食堂。だが、一人の女子生徒の前には男達が群がっていた。

 中心にいるのは、血継魔術科二年、千ヶ崎真央である。今日は彼女の誕生日だ。

 男達からコスメやお菓子等を貰いホクホク顔である。昨年血で血を洗うようなハイブラプレゼント合戦が起きた事により、今年度は抽選制で金額上限2000円までと取り決めが成されていた。奨学金を使い込んだ彼や、消費者金融に駆け込んだ彼もニコニコ笑って真央の誕生日を祝っている誰も損していない優しい世界がそこにあった。


「よっしゃぁ! 今日は皆で授業終わったら飲みに行こうぜ! 祝いじゃあ!」


「あっ。ごめーん。今日はちょっと無理。先約があって」


「はぁぁ!? 千ヶ崎お前ナメんなよ? じゃあ僕の晩御飯はどうなっちゃうの!?」


 今年度千ヶ崎真央生誕祭の幹事を務めていた伊庭八代が悲鳴のような声を上げた。

 この男、月初から金欠で真央の誕生日を企画して美味しい所を掠め取って何とか生きながらえているのだ。今晩も男から多めに会費を徴収するつもりであり、自分の分もそこから支出する気満々だった。


「知らないよ。それに前から言ってたじゃん。モデル仲間の子達が誕生会してくれるって」


「僕を五分で叩きだした奴らだろ!? インフルエンサーなんて差別主義者ばっかじゃん!」


「それはアンタが顔面ケーキされてた子を舐めようとしたからじゃん。まぁ、あの人達のノリもキツいとこはあるんだけどさ。お金かけてやってくれてるし、顔潰すわけにもいかないじゃんね」


 ざわざわと男達がどよめいた。自分に全く縁のない誕生会が開催されるのだ。

 勝手に真央の貞操を気にしている男達からしたら恐怖でしかない。己よりも顔も良く金もある男達が沢山居る誕生会に出席するだなんて考えたくないのだ。


「じゃ、あたしそろそろ向かうから。皆、本当にありがとねー」


 プレゼントを抱えて無理矢理手を振る真央を男達は不安げな表情で見送った。そして姿が見えなくなった後、先程の表情は掻き消えて鬼気迫る表情で男達は八代へと詰め寄った。


「どうにしかしろ貴様! このままではイケメンに千ヶ崎さんが汚されてしまう!」


「えぇー? 僕はあの集まり出禁だしなぁ。あの手の会には姫先輩連れてってるから大丈夫でしょ」


「アイツ昨日、俺のバイト先で他の大学の奴とどんちゃん騒ぎしてたから当てにならねーよ!」


「それに、連絡先交換した奴は顔を覚えて消さないといかん! 何とか潜り込めるようにしろ! しばらく昼飯奢ってやるから!」


 その瞬間八代の表情も変わった。昼飯奢りはかなりでかい。しかし自分は出禁。脳みそがフル回転を始め、八代は一つ案を思いついた。


「プレゼント擬態作戦ならいけるか……。寮に確か四人は入れそうな木箱があったよな。アレにお前らを詰め込んで、会場に送りつければ侵入できるな。後はお前らがノリよく騒いでそのまま居座れ。あいつの友達、可愛い子ばっかだからチャンスだぞ」


「しかし今日の今日で宅配便なんか送れるか? しかも四人も入ったでかい木箱なんか」


「山田先輩の友達に"運び屋"やってる人達いたじゃん。あの人達に頼もう。団地でいつも暇そうにたむろってるじゃん」


「よっしゃあ! 話は決まったな! 寮に戻って準備するぞ」 












 表参道にある貸し切りスペースの一階で千ヶ崎真央生誕祭が開かれていた。

 入り口には見張りと思われる格闘家崩れまでもが配置されているぐらいには著名人が集まっている。駆け出しのDJ、インフルエンサーや読モ。芸能界の下から中程度の人間がそこに集まっている。


「真央おめでとー」


「おめでとー」


 あまり顔も知らない誰かから祝われて愛想笑いを返すのも疲れて来た。写真を撮ったり今度コラボしようと誘われたりと、タスクが山積みになっていく。半分仕事みたいな感じになってきた。ボディーガード役として菊姫梢子を呼んでいるのだが、「さっき渋谷で目が覚めた」とメッセージが届いたので怠い相手にも愛想を振りまかなきゃならいのが面倒くさかった。これだったらスウェットで流星寮でウイスキー飲みながら麻雀やってた方が気楽な気持ちではある。


「ここでサプライズプレゼントが届きましたァー!」


 主催の読モが会場を盛り上げようとマイクでひと際目立つように叫ぶ。これ以上プレゼントはいらない。先程とは違い、それなりに金回りの良い人達の集まりなので自分が返す側になった時に苦労するのは明白だ。またバイト増やさなきゃと辟易する。


「チンポコショ! ドッコイショ!」


「ウンポコショ! ドッコイショ!」


 やたらガタイの良い黒人達が明らかにおかしい掛け声をあげながら巨大な木箱を運んできた。屈強な黒人四人がかりで運ぶような代物だ。どうやって持って帰るんだよと不安になってくる。


「差出人はなんと、マリー喜多川さんからです!!!!!」


「えー! 凄い! マリーさんから!?」


「マリーズかよスゲェ! 確か前に一回広告で使って貰ってたよな」


 とんでもない所からプレゼントがきてしまった。かつて一回道明寺家の付き合いで仕事をした事があった有名企業の社長からだ。

 全員がカメラを構えて何が入っているか楽しみにしている。真央は渋々といった感じを隠すために大仰にテンションを上げて木箱の前へと向かった。


「それじゃあカウントダウン始めるよ! 3、2、1──」


 真央が木箱の蓋をぱっと開けた。そこには──


「きゅ、救急車呼んで…………」


 酸欠になった全裸の男達が折り重なっており、今世紀最大級の悲鳴が表参道に響き渡った。


 


 






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