お菓子の家の内見

左原伊純

お菓子の家の内見

「え!? 全部和菓子なんですか!」


 お菓子の家々を内見して、15件目。

 今までいまいちな物件ばかりだった。


 窓枠がチョコで、窓を開閉するたびに手にチョコが付いてしまうとか。

 床がわたあめで、歩くたびに硬い部分と柔らかい部分ができてしまうとか。

 ドアがビ○コで、開けたと思ったら上のビスケットだけ取れて中のクリームが覗いてしまうとか。

 見た目を重視しすぎたせいで柱がチュロスになっており、微妙にまっすぐではないとか。


 洋菓子は駄目だと、14件回って結論付けた。


 珍しい和菓子のお菓子の家に足を踏み入れる。

 床にお煎餅が六枚。六畳の部屋と同じ広さだ。

 窓は透明度の高い寒天で、キャンディーを窓にしていた洋菓子の家々より外が綺麗に見える。


 壁はしっかりとしたモナカで作られている。


 隣の部屋の音がどれほど響くか確認するため、モナカの壁を軽く叩くと、ずっしりとした感触があり、防音性能が相当高いと分かった。


「駅まで徒歩何分ですか?」

「十五分です」


「今までに騒音のトラブルとかはないですか?」

「ありませんよ」


 ここ、いいのでは?



 こうして、僕は和菓子のお菓子の家に住み始めた。

 大学進学のため、初めての一人暮らしだ。早く大学に慣れるためにも早く寝なくては。

 低反発の羊羹のマットレスの上にカステラの敷布団を敷いた。寝心地がよく、すぐに眠りに落ちた。


 落雁らくがんの作り付けの棚に置いておいた鞄を持ち、大学に出発した。


 たくさんある課題も、菱餅のテーブルの上でやれば、とても捗った。


 こうして、順調に季節が進み、7月になった。今年の記録的な猛暑は、連日最高気温を更新する。


 朝起きて、天井の違和感に気がついた。雷おこしの天井が、傾いている?


「なんだこれ!」


 海苔巻き煎餅のドアの海苔がしけっている。


 雨漏りか?


 ふと、息を吸い込んだ途端に、甘ったるい匂いに気がつく。

 そこかしこから甘い匂いがする。


 それは、壁から漂っていた。


 壁を叩くと、ぐにゃりと皮がしなしなになって、僕の拳の形に凹んだ。


 そして、白くて甘い香りの冷たい液体が、僕の手をべとべとにした。



 僕は怒りに任せて不動産屋に駆け込んだ。


「モナカにアイスが入ってるなんて聞いてないですよ!」

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お菓子の家の内見 左原伊純 @sahara-izumi

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