【KAC20242】お値段以上!

雪の香り。

第1話 内見に行ったが?

私は困っていた。


自分では「縁を切った」と思っていたが、法律的にはそうはいかず、孤独死した母の色々な事後処理が私に回って来た。


母は、娘……私のことだ……がいなくなった寂しさに耐え切れず猫を飼い始めたらしい。


そしてその猫が子供を産み、その子供がまた……と連鎖していき多頭飼いの汚屋敷を作り出してしまったのだ。


家は処分が決定したが、猫たちは……飼い主を探すにしても、この数では。

それに子猫ならまだしも、成猫は貰い手が付くのは難しいだろう。


きっと探せばこういうときに力になってくれるペット専門の業者さんがいるのだろうが、探すにしてもとっかかりがない。


そんなときに「お値段以上に働きます!」という宣伝文句の便利屋のポスターを発見した。


私は疲れていた。


普段なら怪しいことこの上ないポスターに踊らされたりしなかったが、あの猫の件が片付くならと電話してしまったのだ。


ワンコールで相手は出た。

『はい、お値段以上に働きます! 便利屋コスモです!』


私はそのハキハキした女性の声になんだかホッとしてしまって泣きじゃくりながら現状を説明した。


女性は『それならばペット可の物件を案内させていただきます。格安ですが沢山の猫ちゃんとも一緒に住めます! 今から内見できますよ!』と答え、私にその場で待つよう指示し通話を切った。


そこで正気に返ればいいのだが、私は従順にその場で突っ立っていた。

やがて、便利屋とは思えないシルクハットにタキシードの「舞踏会にでも行くんですか」という格好の男性が現れた。


彼に「便利屋コスモからご紹介を受けました。不動産屋のギャラクシーです」と名乗られたとき、さすがにおかしいと脳内に警告音が流れた。


今更警告されても遅いんだよ。

我が脳は危機察知能力が低い。


戸惑っている間にギャラクシーとやらに恭しく手を取られ「こちらです」と歩き始めたのだが……三分も経たずついたのは小奇麗だが小さなアパートだった。


こんなアパートでは、あの数の猫は……と眉間にしわを寄せた時。


「こちらが玄関です。中はこんな感じですよ」


と招き寄せられ中に入った途端。

私は「はぁああ?!」と声を上げた。

ギャラクシーは。


「あ、驚きましたか? 家具付きの物件なんです」


そこじゃない!

私は、アパートの外観より倍以上広い部屋のスペースに驚いているんだよ!


家具もなんかロココ調っていうか?

金持ちっぽい感じだし?


どうなってるんだ……夢か?

なんて混乱している私を置いてギャラクシーは。


「こちらは猫ちゃんのお部屋になっております」


と新たに奥の扉を開いた。


そこには……キャットタワーにフカフカの猫用ベッドにトイレ、おもちゃなどが既に用意されており、窓の向こうには猫たちが走り回っても大丈夫そうな塀に囲まれた庭があった。


……これはもう、完全に夢だな。

疲れているあまり、都合のいい夢を見ているんだ。

ギャラクシーに。


「良い物件でしょう? ここにサインをお願いいたします」


といわれ、どうせ夢だし、とサインをした。


***


三日後、私は宇宙船の中にいた。


「まさか、夢じゃなかったとはねぇ……」


サインした書類には「住居を提供する代わりに、宇宙船のエネルギー源として排泄物を提供する」と書かれていた。


そう、今は……用を足しているところなのである。

うちのトイレ=宇宙船の動力室なのだ。


怪しい便利屋コスモも便利屋ギャラクシーもエネルギー不足で困っての苦肉の策だったらしい。

なんともいえない。


排泄し終わったところで扉を開けると自宅につながっている。

なんだか脳みそがバグりそうな環境だが、まあ今のところ問題はない。

実質家賃は無料であるし。


ただ、便秘になった時にギャラクシーが取り立てにやってくるのだけが悩ましいところなのだった。




おわり

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