敏腕エージェントの日常2
信仙夜祭
今日は、潜入捜査の前段階か~
「敏腕エージェント……、次の指令だ」
俺は、暗号文を受け取った。
同僚の平凡エージェントは、暗号文だけ渡して足早に去って行った。
まあ、彼には重要な任務は任せられない。できて、お使い程度だろう。
だが、サポート役は必要だ。俺がいかに敏腕だとしてもだ。
彼を見送った後に、暗号を解読して行く……。
「敵国への潜入任務? まず、住まいを確保しろと?」
任務の中でも、最高難易度に近いな。他国のエージェントと察知されずに生活しなければならない。
さて……、パスポートの偽造から行くか。
◇
支度金は、中流階級が住む家が買える程度には支払われていた。
「しかしどうして、家を買うんだ? アパートでいいんじゃないか?」
もしかして、数年はこの国に住むことになるのか? 就労ビザをどうしろっちゅーねん。それと仕事だよ。斡旋しろよ。無職の外国籍って怪しさ満点の人物になってんじゃん。
今俺は、使い捨てのパスポートで他国に潜入している。
もうね、語学勉強だけでもいっぱいいっぱいなのよ。
「愚痴っても意味ないか。指令通り、家を探そう」
建売の住宅見学会に参加することにした。
ちなみに、今はホテル暮らしだ。資金が溶けきる前に決めないとな。
「こちらは、4人家族用となっております」
住宅の内見を行って行く……。
家具、家電付きだが、隣の家と近い。それに電気配線の流れが怪しい。
(ダメだな……。逃走経路がない)
こんな集合住宅では、いざという時動けない。ロケット砲など持ち込まれたら、この地域全てが燃えてしまう。
俺は、僅かな失敗が、即、死に繋がる世界で住んでいるのだ。
俺は、その住宅見学会を後にした。
その後、不動産屋に行く。
資金の上限を提示して、斡旋して貰う。
一戸建てから、アパートまで物件を見せて貰う……。
(ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ……)
「お客さん……、判断が速過ぎますよ。もうちょっと吟味してもいいんじゃないですか?」
君が遅いだけなんだよ。そんな遅さでは、銃口を突き付けられた時点で終わりだぞ?
面倒だから、ファイルをひったくる。
1ページを0.2秒で判断して行く。俺は即読法を習得しており、視野拡大と動体視力の訓練を受けているのだ。ファイルをペラペラと捲って行く……。
――ピク
◇
「本当にこちらでよろしかったのですか?」
今俺は、住宅の内見のため、見つけた物件にいる。
「いいですね~。この内装。修理しがいがあります。ここに決めます」
そこは、築50年の中古物件だった。
半分朽ちていると言ってもいいが、柱はしっかりしている。
土地も広く、隣の家とも距離がある。万が一ドンパチが起きても、近所迷惑にはならないだろう。
それと、地下室だ。何に使っていたのかは分からないが、この価値は大きい。
使い道など無数にある。
「ここに決めます。明日から、リフォームですね」
「はあ、それでは、こちらにサインをお願いします」
資金は半分余ったが、これからリフォームを行うので、新築物件と変わらないだろう。
だが、俺の好きなように改造できるのが大きい。
俺は敏腕エージェントなのだ。電気工事や土木工事などお手の物だった。
「さて、リフォームを頑張るか。まず、トイレ・キッチン・バスルームだな」
◇
一ヶ月後、俺の家には多くの客が訪れていた。
「凄いわ~。なんてモダンな家なのでしょう。流石、外国の方だわ~」
近所のマダムが、賞賛を送って来る。
「この内装、参考にさせて頂きたい。デザイン料をお支払いします。ぜひ契約を! 他にもデザインのアイディアがあれば……」
おいおい、不動産屋。建築士を連れて来るんじゃない。
いやさあ……、エージェントの家には家具配置にも意味があってだな。
それに写真を撮るのは止めて欲しい。
ここは、秘密基地でもあるんだぞ?
エージェントは、目立ってはいけない。
だけど、彼等を受け入れたことで、この国に溶け込めただろう。俺を他国のエージェントと見破る奴は、いないだろう。
目的は、達成された。
夜になり、地下室へ移動した。一人で食事を摂る。
ここには、通信施設などの秘密道具を配置していた。最悪この部屋を爆破するだけで、母国との繋がりは途絶える仕様だ。
地上の仮の住まいは、擬装用なのだ。俺は、この部屋に住んでいる。
「……頑張り過ぎたかな? それにしても、指令が来ないな」
そう思ったら、通信が入った。
「え~と、なになに……」
『敏腕エージェント、流石だ。君が選ばなかった住宅見学会の家には、盗聴器が仕掛けられていた。第三国のエージェントがそこに住んで、即捕まった。それと我が国には、建築資材の注文が殺到しているそうだ。随分とモダンな家を建てたみたいだな。君は、これから輸入業者になりすまし、政府高官の家に潜入して貰う。計画が出来次第、追って連絡する』
ふう~、やれやれだぜ。
それにしても、第三国のエージェントはアホなのかな?
盗聴器も見破れないのか。
「それにしても、建築資材の輸出増加か……。ふっ。流石、俺と言ったところだな」
偽装のためのリフォームだったが、母国に利益をもたらせてしまったか。貿易が増えて、両国の関係も改善して来ているらしい。
さて、潜入任務の準備を行うか。まず、輸入業者の身分証の作成からだな。
◇
こうして、今日もこの国の平和が護られた。
敏腕エージェントの活躍は、終わらない。
終わりが見えない戦いは、今後も続いて行く――かもしれない。
敏腕エージェントの日常2 信仙夜祭 @tomi1070
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます