リュウが如く
我那覇キヨ
リュウが如く
「これで勝ち越しだよな? 負けた回数は覚えちゃいないけどな」
画面の中でともだちの使うキャラクターの勝利メッセージが表示されている。ぼくのリュウはともだちのケンに負けたのだ。
格闘ゲームというジャンルのゲームがある。
簡単に説明すると、画面内のキャラクターをレバーとボタンで操作して、対戦相手を倒すゲームだ。1991年にゲームセンターに登場した格闘ゲームは、その後ゲームセンターの在り方を一変させてしまうような大ブームをもたらした。
美麗なグラフィック、迫力のあるサウンド、多様なキャラクター。格闘ゲームの魅力を語るのに様々な要素があるが、人と人の対戦ができるというところが、それまでのアーケードゲームと一線を画す要素だった。
これはそんな対戦格闘ゲームにのめりこんだ、ぼくの話。
リュウ。
格闘ゲームブームの火付け役となったストリートファイターの主人公キャラクター。
リュウは強くなること、強い相手と戦うことを目的にストリートファイトをしている。
ぼくはこのリュウが好きだった。
ほかのキャラクターは仇討ちやお金、名声なんかが戦う動機なんだけど、リュウだけは戦うことそのものが目的なのが面白いなと思った。ほかのキャラクターが戦うのをやめても、リュウだけは戦い続けるんじゃないかと思わせる、そんな冷静に考えれば変なところと、いやだからこそ一周回ってカッコいいんじゃないかと思わせる不思議な魅力があった。
ぼくがゲームセンターに通いだした当時は、プロゲーマーなんて職業もなく、ゲームセンターで遊ぶことは遊びでしかなかった。ゲームの筐体に100円を入れてゲームスタート。人と対戦になれば、負けた方はゲームオーバーでもう遊べない。遊び続けるためには、勝ち続ける必要があった。今考えれば、ずいぶんな環境だと思う。でも若くて生意気盛りだったぼくには、そのルールがわかりやすくて好ましく思えたんだ。
「強くなることは遊び続ける手段であり、目的でもある。だから、遊びだけど強くなるために努力する」
対戦格闘ゲームを遊ぶ人のこの複雑な心情は、そのままリュウの「戦いそのものが目的」とリンクする。
そのことに気づいた時、ぼくはリュウが主人公でよかったと思った。
「俺より強いやつに会いにいく」
ストリートファイターシリーズのキャッチコピーであるこの言葉を体現するリュウに、ぼくは憧れてしまったのだ。
そこからあとは格闘ゲーマーお決まりの道を歩いた。知らないゲームセンターに行ってはその店で対戦を繰り返して。強いやつがいるという噂を聞いては色んなゲーセンに足を伸ばした。その過程でともだちもできた。彼女はできなかった。当たり前か。
さて。
そんなリュウだけど、数多く作られたストリートファイターシリーズで、リュウが強いキャラであることは少なかった。
格闘ゲームは異種格闘戦をプレイヤーに体験してもらうため、色んなキャラクターを開発者が用意する。
リュウはスタンダードなキャラクターであるため、ほかのキャラクターを作る基準となる。だから尖った部分が抑えられる。結果として、バランスは良いが決定力に欠ける。
そこは仕方ない。どんな相手とでも互角の勝負ができるところは、むしろ楽しみが増えていいとさえ言える。
さて、格闘ゲームには色んなキャラがいると書いたが、リュウの親友でライバルキャラクターとして登場する、ケンというキャラクターがいる。真面目なリュウと対照的に派手好きで金持ちの御曹司という設定だ。
服もリュウは白い胴着に黒髪はちまき。ケンは赤い胴着に金髪。
ゲーム内の性能としては二人とも同じ技を使うが、一撃が重いリュウと、手数が多いケンという感じ。
好対照なライバルなのだ。
このケンが、いつも悩ましい。
格闘ゲームが何作も作られ、開発やプレイヤーにノウハウが溜まっていく。ゲームとして上達に耐え得る深みのある作品になっていく過程で、リュウのコンセプトには逆風が吹き続けた。
プレイヤーの努力の方向性が、リスクを削ぎ落とし小さいリターンを積み重ねていくというものになっていく過程で、重い一撃はともすれば大振りな博打技と謗られかねないものになっていった。
ゲームの開発側も、リュウとケンを差別化していく中で、リュウには一撃のロマンを感じさせるような技を追加したりと、悪循環は続く。
対戦では互いに勝利を目指し努力することがマナーだとして。それならばリュウに拘らず、リュウで培ったノウハウも活かせるケンに使用キャラクターを乗り換えるべきだという意見は、真っ当で合理的なものだと思う。
それでも。
それでもリュウには、代え難い魅力があるのだ。
大きなリスクと引き換えに間合い戦を支配できる波動拳も、読みを通せば一瞬で体力を奪うパワーも、レバガチャを極めて有無を言わさず相手をスタンさせる電刃波動拳も。
どれもリュウにしかない魅力なのだ。
それらがどれも高リスクで時代にそぐわないことを理解した上でもなお、スペックの頂点を繋ぎ合わせた、理想のリュウの姿を夢見ずにはいられない。
そんなリュウの姿は、記憶にも、試合の動画にもどこにもないにも関わらず、だ。
実際の試合は、泥くさく勝ちを拾うような戦いになることもしょっちゅうだ。
これはきっと夢。
いつか至るかも知れない夢。
至らないまま倒れるかも知れない夢。
それが、リュウを使うプレイヤーの中にはある。
少なくともぼくはそうだ。
「強者を思い、この腕が奮う限り……
指一本にでも、力がこもる限り……
闘うだけだ!」
リュウが如く 我那覇キヨ @waganahakiyo
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