第一部最終話 同居ラブコメのはじまり!?

「僕が、愛人……?」


 驚きの声をあげるブレア。

 あれからすぐに目を覚まし、特殊職業に目覚めたこと、その職業の名前が『愛人』だということを話したのだが、それを聞いたブレアはたいそう困惑していた。


 ちなみに、魔法の虫眼鏡では職業はわかったが、その詳細まではわからない。

 だから愛人がどういう職業でどんな効果があるのかは、俺たちの知ってる知識から推測するしかないわけだが……


「愛人って、あれですよね。不倫相手とか、お妾さんとか、そういう意味の……」

「俺が真っ先に思いついたのも、そんなのだな。あと、色んなことの見返りとして、金だの経済的支援だのを受ける人って意味もあったかな」


 なんか、あんまり良さそうなイメージがないな。

 さすがは、ヤンデレやブラコンやノブナガなど、トンチキ満載の特殊職業だ。


 だが俺ならまだなんじゃこりゃって言うだけで済むかもしれないが、ブレアにとっては深刻な問題だ。

 これからずっと、職業愛人ってのを背負っていかなければならないんだからな。


「そもそも愛人って、いったい誰の愛人なんでしょう?」

「わからないのか?」

「わかりませんよ。アレックスさんは、誰か心当たりいませんか?」

「いるわけないだろ」


 なんで本人もわからない愛人相手を俺が知ってるんだよ。

 だいたい俺は、今日までこいつのことを男だと思ってたんだぞ。

 そうとは知らないで同じ家に住み、パーティーメンバーからは付き合っていると誤解されているんだから、世の中何が起こるかわからない。


「いや、待てよ……」


 俺、ブレアと付き合ってるってことになってるんだよな。

 しかも今までは、みんなに黙ってコソコソやってたってことになっている。

 さらに、俺の一存でパーティーにいさせ給料を払うという、言わば経済支援もやっている。

 これってさ、傍から見ると、愛人関係っぽくないか。


 いや、もちろん俺には正妻なんてものはいないんだが、これだけ条件に合うやつって、俺しかいないんじゃねえか?


 つまり、なんだ?

 俺とブレアが、愛人関係????


「アレックスさん? 急に固まって、どうしたんですか?」

「い、いや、なんでもない。なんでもないぞ!」


 驚きのあまり咄嗟に誤魔化したが、この判断は間違ってないと思う。

 いきなり、俺と愛人関係になったかもしれないなんて言ったら、なんて思うか。

 下手をしたら、そんなの嫌なんて言ってパーティーから出ていくかもしれない。

 意味不明な職業ではあるが、せっかく無双できそうなものにジョブチェンジできた矢先にそれはまずい。


「ま、まあ、これにジョブチェンジできたおかげで凄い力を発揮できたのは確かなんだし、くわしいことはこれから少しずつ調べていったらいいんじゃないかな。それより、今日は疲れただろう。ゆっくり休もうじゃないか」

「えっ? でも……」


 あからさまに話を逸らしたことに、不思議がるブレア。

 だがその時、ブレアの腹がグーっと大きく音を立てた。


「わっ! あ、あの、これは……」

「腹が減ってるのか。あれだけ頑張ったんだから、無理ないな。よし、飯にしよう」


 恥ずかしがってるブレアには悪いが、話を中断するいい口実ができた。

 早速キッチンに行って、食事の用意を始める。


「準備は俺がしておくから、お前はもう少し休むなり、風呂入って汗流すなりしといてくれ」

「でも、いつもアレックスさんばかりに家事をやらせるのは……」

「今日は特別でいいだろ。あんなに頑張ったんだからな」


 さっきまで休んでいたとはいえ、マリアーノの超強力ブラックホールを切り裂いたんだ。

 きっとまだまだ疲れているだろうし、ゆっくりさせてやらないと。


「そうだ。言うのをすっかり忘れてた。助けてくれて、ありがとうな」

「い、いえ。あの時は夢中で、咄嗟に動いただけですから。じゃあ僕、お風呂入ってきますね」


 礼を言われたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くして、風呂場の方に駆けていくブレア。


 風呂か。あいつが女だと知った以上、これから出入りする時はノックは必須だな。

 って言うか、今俺とブレアは、ひとつ屋根の下で暮らしているんだよな。

 今まで男だと思ってたから特に問題ないって思ってたけど、いいのかこれって?


 しかも、ジョブチェンジ的に言えば、愛人認定されているやつとだぞ。

 もしや、『勇者パーティーを追放されたけどジョブチェンジしたら無双できてザマァした件』も、実は同居ラブコメになっていたのか?


この物件の内見をした時は、こんなことになるなんてカケラも想像してなかったよ!


 見事ジョブチェンジを果たし、無双する兆しが見え始めたブレア。

 しかし色んな意味で、まだまだ悩みは尽きそうになかった。

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