第21話 特殊職業とは

 俺は、アレックス。職業は勇者だ。


 職業が勇者ってのもなんだかおかしなように思えるかもしれないが、この勇者という職業、転職の神殿でジョブチェンジしたものじゃない。


 実はこの世界には、通常の職業の他に、特別な才能を持った人間が特定の行動をとることで自動的に天啓を受けジョブチェンジする、特殊職業と呼ばれるものが存在する。


 俺の場合、たまたま勇者の才能を持っていた俺が、魔王を倒す旅に出ることで天啓を受け、ジョブチェンジしたんだよな。

 さあ旅に出るぞと思ったとたん、天から光が舞い降りいきなり強くなったもんだから、あの時は驚くやら嬉しいやらで、小一時間小躍りしたもんだ。


 そしてそんな特殊職業のやつが、どうやら俺以外にもいるらしい。


「ブレアさんが、特殊職業だっていうのですか?」


 これまでの俺の話を聞いて、エレナが聞き返す。


 ここは、俺の家。

 対決の後、倒れてしまったマリアーノとブレアは、それぞれ病院と俺の家に運ばれた。

 最初は二人とも病院に連れて行こうと思ったが、ブレアには傷らしい傷がないこと。あと、あれだけ暴言連発の戦いの後だと、顔を合わせにくいのではということで、二人ともいったん別の場所で休ませることにしたのだ。


 マリアーノはガストンが、ブレアは俺がそれぞれ運んでいき、エレナは俺とブレアの方についてきたのだが、ブレアを部屋で寝かした後、今に至るというわけだ。


「エレナ。ブレアが急に強くなったの、お前も見ただろ。何もなしに、急にあんなになるわけがない。あの瞬間天啓が来て、特殊職業に目覚めたとしか思えない」


 ブレアの無双の秘密がジョブチェンジにあるのは、前世で見たマンガのタイトルから間違いないし、転職の神殿にも行かずジョブチェンジとなると、特殊職業に目覚めたとしか考えられない。

 だからこれは、かなり自信を持って言える推測だった。


「アレックスさんは、こうなることがわかっていたのですか?」

「まさか。だいいち特殊職業ってのは、誰がその才能を持っているかも、どういう条件でジョブチェンジするのかも、まるでわからないんだぞ」


 そのため特殊職業に目覚めるかどうかは、完全な運任せと言っていい。

 過去に俺と同じ勇者にジョブチェンジしたやつだって、その条件は伝説の剣を引き抜くだとか、何人もの仲間から力を分けてもらっただとか、実に様々で、一定じゃない。


 そのため特殊職業にジョブチェンジしたやつは、世界中探してもほんのわずかしかいないんだ。


 そんな特殊職業にブレアが目覚めたのは、運がよかった。

 実はブレアに合った職業を探していた時も、特殊職業の可能性を全く考えてなかったわけじゃない。

 だが、何かをしたらジョブチェンジするかもしれないなんて、ノーヒントでその何かを当てるなんて不可能だと思い、考えないことにした。


 今だって、ブレアが何きっかけで特殊職業に目覚めたのかはわからない。


「それにしても特殊職業とは。強いことは確かですが、これは厄介かもしれませんね」

「それを言うなよ」


 エレナの言葉に、思わずため息が出る。


 実は、特殊職業の可能性から目を逸らしていたのはジョブチェンジする方法がわからないからだけじゃない。


 特殊職業にジョブチェンジしたやつは、世界中探してもほんのわずか。


 それ故に、特殊職業に目覚めても、その職業がどんなもので何が得意かほとんどわからず、強力だが使いづらいという例が多かったらしい。

 俺の勇者は、数少ない例外だ。


 しかもこの特殊職業、なぜかやたらとヘンテコなものが多いのだ。


「なあ、エレナ。お前、勇者以外の特殊職業って、どんなのを知ってる?」

「そうですね。噂や伝承で聞いたことがあるくらいですが、確か、ヤンデレ、ブラコン、ノブナガといった名前のものがあるらしいです」


 どうだ、この訳わからん職業の数々。って言うかこれら、職業なのか?

 特殊職業に目覚めたヤツらは、いきなりなんの前触れもなく、今日からあなたの職業はヤンデレねとか言われるんだぞ。

 しかも、どれもこれも詳細不明。


 そのため特殊職業は、あんまりなりたくないなってのが、一般的な認識だった。


 俺、つくづく勇者でよかったよ。


「ですが、とにかくブレアさんは、その特殊職業に目覚めたようなのですよね。しかも、あれだけすごい力を持った職業に。だったら、それを活かせるようにサポートするべきじゃないのですか」

「そうだよな。とりあえず、ブレアが起きたら、職業が何なのか確認してみるか」


 そこまで話したところで、エレナはマリアーノの様子が気になるからと言って帰っていった。

 ブレアの職業については、また明日話を聞くそうだ。


「さてと。ブレアのやつ、どうしてるかな」


 エレナを見送り、少し時間が経ったところで、ブレアの部屋に様子を見に行く。

 ベッドに寝かせて休ませてからしばらく経ったし、そろそろ目が覚めてもおかしくないだろう。


 ブレアの部屋の戸を開け中を見ると、ブレアはまだ眠っていた。

 起こしちゃ悪いから、このままにしておくか。


 だが、そこで思った。せっかくだから、今のうちにブレアの職業を見ておこうかと。

 本来人のステータスを見ることはできないのだが、以前ダンジョンで手に入れた魔法の虫眼鏡というレアアイテムを使えば、それも可能だった。


 寝ているブレアに近づき、ステータスを確認する。

 思った通り、少し前まで無職だったはずの職業欄には、別のものが記載されていた。

 その職業とは……


「なんだこりゃ?」


 書かれていた職業を見て、わけのわからん声が出る。

 ブレアの現代の職業。それは、『愛人』だった。

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