第20話 ブレア覚醒!?

「バカ、なにやってるんだ! 逃げろ!」


 俺ですら死を覚悟するくらいの大魔法だ。ブレアが立ち塞がったところでどうにかなるわけがないし、死ぬのが二人に増えるだけだ。


 なのにブレアは、ちっとも逃げようとはしなかった。


「い、嫌です! だ、だって、このままじゃアレックスさん、死んじゃうかもしれないじゃないですか!」


 だから、お前が頑張っても結果は変わらないんだよ!

 そんなことは、ブレア自身が一番よくわかっているんだろう。

 声も足も、剣を握る手もガクガクに震えている。


 それでもその剣を、迫り来るブラックホールに向かって構える。


 まずいまずいまずい!

 俺の失言のせいでブレアまで死んでしまったら、いくらなんでも後味が悪すぎる。


「やめろ! お前までやられるぞ! いいから逃げろ!」

「見捨てるなんてできません!」

「わからずや!」

「アレックスさんは、僕のことをすごい力を秘めてるって言ってくれました! 必要だって言ってくれました! そんなアレックスさんを見捨てるくらいなら、わからずやでいいです!」

「ブレア、お前……」


 俺の言った言葉、大事にしすぎだろ。

 こいつにとって、そのくらい嬉しかったのかよ。

 って言うか、そうまでして俺のこと守ろうとしてくれるのかよ。

 こんな時だってのに、なんかウルッとしてきた。


 だが、そんな俺たちの様子を見て、ウルッとどころか、カンカンになってるやつがいた。

 マリアーノだ。


「リア充どもが! イチャラブなんぞ見せつけてんじゃねぇーーーーっ! 」


 そして、ついに俺たちに向かってブラックホールが放たれた。


 ついさっきまで腰が抜けていた俺は、逃げるのはもちろん、剣を抜くことすらもできない。

 ブレアは、さっきまでと同じように構えていた剣でブラックホールを受け止めようとするが、そんなものなんの役にもたたない。

 秒で飲み込まれて終わりだ。


 そう、誰もが思っていた。


「なっ─────!?」


 次に俺たちが見たのは、誰もが目を疑うような光景だった。


 全てを飲み込むようなブラックホール。それをブレアは、剣一本で受け止めていた。


「こんな、バカな……」


 ブラックホールと言っても、魔法で発生させたものなら、同等以上の力を込めた武器で受け止めることも斬ることも可能。それが、この世界の法則だった。

 だから剣でブラックホールを受け止めるというのも、決して不可能じゃない。

 ただし、それはもちろん、それだけの力があったらの話。

 今のブレアにそんな力はないと、俺を含めた誰もが思っていた。


 だが現に、ブレアはそれをやってのけている。

 それだけじゃない。受け止めたブラックホールに、徐々に切れ目が入っている


「なんでだ? ジョブチェンジもしていないのに?」


 ブレアは、何かの職業にジョブチェンジすることで無双できるようになる。それは間違いない。

 だが今の彼女は無職。無双できるような力なんて、出せるはずがないんだ。


 だが現に、ブレアは今、そんな力を出している。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 叫ぶブレア。

 そして、それまでブラックホールを受け止めるために使っていた剣を、大きく振った。


 振るわれた剣は、ブラックホールを切断。全てを飲み込もうとした悪魔の球体は、嘘のように消滅した。


 さらにその際、剣先から斬撃が放たれ、マリアーノに迫る。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」


 幸いそれは、マリアーノのすぐ側をかすめただけだったが、あれだけの大魔法を切り裂いた斬撃だ。

 直接当たらなくてもその衝撃は凄まじく、マリアーノは天高く吹っ飛ばされてしまった。


 そして地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。


「マリアーノ、無事か!」


 ブラックホールも消え、もう安全だと思ったんだろう。ガストンとエレナが出てきて、マリアーノに駆け寄る。

 心配なのは俺も同じだ。マリアーノのやつ、死んだんじゃないだろうな。


「だ、大丈夫だ。直接当たったわけじゃないし、吹っ飛ばされて気絶しただけみたいだ」


 そうか、よかった。

 もちろんこれだって決して軽傷じゃないだろうが、あの威力を見ると、これくらいですんで運が良かった方だろう。


 そうなると、次に気になるのはブレアだ。


「ブレア、今のはいったいなんなんだ。お前、こんな凄いことできたのか!」


 ブレアが何かの職業でチート無双できる力を秘めているってのは知っていたが、実際にあんなもの見せられたら驚愕しかない。

 しかも、今の彼女は無職のはずだ。これは、詳しく聞かなければ。


 だがそのブレアは、俺よりもずっと驚愕していた。


「あ、いえ、その……僕、いったい何をしたんですか、」


 何が起きたかまるでわからないって感じで、目を大きく見開き丸くしている。

 もしかして、自分でも何が起きたかわかってないのか?


 無意識にこれだけのことをしでかすって、そんなことあるのか?


 しかし、俺は、あることを思い出す。


「いや、待てよ……」


 この世界でジョブチェンジは、転職の神殿で行われる。その常識に、数少ない例外があることを。

 それならこの事態にも、一応の説明はつくかもしれない。


 だが、それ以上考えている暇はなかった。

 ブレアは、まるで力を使い果たしたかのようにその場に座り込んだ。いや、倒れこんだと言った方がいいかもしれない。


 そしてそのまま、すぐに意識を失ったのだった。

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