第18話 マリアーノの怒り

 対決するんだから、好戦的になるのはまあわかる。

 だが今のマリアーノは、そんなものでは説明できないくらい怒っているように見えた。


「あんたみたいな色ボケ、さっさとやっつけてやるわよ! さあ、勝負開始よ!」

「えっ? ちょっ、ちょっと待って……」


 いきなりの勝負開始宣言に驚くブレア。

 だが次の瞬間にはもう、マリアーノは魔力をためた手から、火の玉を発射した。

 いや、火の玉だけじゃ終わらない。火の玉がブレアに届くよりも先に、氷の槍、風の刃、石のつぶてなど、次々に魔法を発射していく。


「うわっ!────ひぃぃぃっ!」


 もちろん、こんなものブレアがまともに受け止められるはずがない。

 慌てて逃げ出すが、マリアーノは容赦なく魔法を放ち続ける。


「逃げるな! 大人しくやられなさーい!」

「い、嫌ですーーーーっ!」

「木っ端微塵にしてくれるわーっ!」


 木っ端微塵はまずいだろ!

 勝負するからには本気を出すのは当たり前だが、いくらなんでも、これは容赦なさすぎじゃないだろうか。

 それだけじゃない。


「愛されて、贔屓されて、さぞかし気分がよかったでしょうね! あんたがアレックスとイチャコラやってる間、私がどんな思いをしてたかも知らないで!」

「ま、マリアーノさん。なんの話して……うわぁぁぁっ!」

「あんたはいいわよね。実力もないくせに、いっちょ前に愛されて、さぞかし幸せでしょうね! くっだらない!!!」


 わけがわからないことをわめきながら、放たれ続ける魔法。

 そのうち一つがブレアのすぐ側を掠める。

 何とか直撃は避けたものの、爆風でブレアは吹っ飛ばされてしまう。


 さらにマリアーノは、これまでにないくらいの魔力を溜め、巨大な火の玉を作り出した。


「さあ、そろそろとどめを刺しましょうか。愛に敗れた者の怒りと悲しみ、受けなさい!」


 くそっ! わかっていたけど、やっぱりこのままじゃブレアは勝てない。


 けど、さっきからマリアーノはいったい何を言ってるんだ。

 元々、ブレアのことを実力不足だと言ってはいたけど、この怒り方は明らかに異常だ。

 しかも、愛に敗れた者って、どういうことだ?


「まさか、マリアーノのやつ、俺のことをが好きだったのか!」


 重大な真実に気づいてしまった。

 そうか。それなら、この怒りも納得だ。


 マリアーノが俺のことを好きだったとして、なのにずっと前からブレアと付き合っていたなんて知ったら、そりゃショックも受けるだろう。


 すまないブレア。

 俺がモテるばっかりに、とんだ苦労をかけてしまった。


 そしてすまないマリアーノ。

 ずっとそばにいるのに、お前の気持ちにちっとも気づいてやれなかった。


「お前、何言ってるんだ。マリアーノには彼氏がいるぞ」

「マリアーノさんがアレックスさんを好きってことは、欠片もないと思います」


 違うのかよ!

 じゃあ、なんであいつはあんなに怒ってるんだ?


「いや。正確には、『彼氏がいる』でなく、『彼氏がいた』、だったな」

「そうですね。そのせいで、マリアーノさんは……」


 揃って気まずそうに目を伏せる、ガストンとエレナ。

 いったいなんなんだよ!?

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