第13話 偽りの理由

「なあ。謝る前に、いったいどうしてそんな嘘をついたのか、話してくれないか?」


 それを言わずにすみませんと言われても、どうすればいいのかわからない。


「それは、その……雇ってくれるパーティーがなくて困っていたら、冒険者ギルドの求人募集を見たんです。そしたら、このパーティーが戦士を募集しているって張り紙を見たんです。けど、条件に男性の方ってあったんです」

「戦士募集の条件に、男性? あー、そういうことか」


 俺たちが戦士を募集した時、その宣伝とチラシ作りを、冒険者ギルドに全部任せたんだよな。

 戦士って職業は男の比率が圧倒的に多くて、男の職業ってイメージがあり、その先入観から、男しか募集してないパーティーもあるらしい。

 チラシを作ったギルドのやつも、そんな先入観の持ち主だったのかもしれないな。


「うちじゃ、実力さえあれば男も女も関係ないから。全部ギルドに任せてたけど、もう少しちゃんとチェックしておけばよかったな」

「えぇっ! そうだったんですか!? じゃあ、職につきたい一心で、男装までした僕はいったい……」


 完全に、いらない苦労だったというわけだ。


「なんていうか、すまん」


 ギルドには今度抗議するとして、こいつには悪いことをしたな。性別を理由に職につけないなんて、そんなの理不尽以外の何物でもないだろう。


「それにしても、よく今まで隠し通せたな。お前がパーティー入ってから、今まで、けっこう長かっただろ」

「バレたら大変なことになるって思って、必死に隠してましたから。元々僕っ子でしたし、体のメリハリもあんまりなかったから、ギリギリなんとかなるかなって」


 なんとかなるわけないだろ!

 とツッコミたくなるところだが、現に今までの間気づかなかったんだよな。

 もしかするとこいつ、そういう方面に才能があるんじゃないか?

 男装が活かせそうな職業があったか、今度探してみようかな。


 だが、そこでブレアは顔を伏せ、ガックリと肩を落とす。


「けどどんな理由があっても、嘘ついて仕事につくのはダメですよね。実力さえあれば関係ないって言っても、僕にはその実力がない」

「それは、まあ……」


 性別は問題ないとしてもだ、確かに今のこいつには、うちのパーティーにふさわしい実力があるとは言えないよな。


 それは、本人が一番よくわかっているのだろう。

 だが、この流れはまずい。


「やっぱり僕、このパーティーにいる資格なんてありません。今まで、お世話になりました」


 まずい! このままパーティーを抜けられたら、ざまぁされてしまうじゃないか!

 いや、これは追放じゃなく自主的に辞めるから、セーフなのか?


 わからん! わからんが、用心しておくに越したことはない。


「待てブレア。そんなこと言うな! ずっとこのパーティーにいてくれ!」

「でも僕、みんなを騙してたし、役立ずだし……」

「そんなことない! いいか、お前は自分で気づいてないだけで、すごい力を秘めているんだ。俺が保証する。そんなお前を役立ずなんて言うやつがいたら、俺が許さない。例えだれがなんと言おうと、うちには、いや俺には、お前が必要なんだ!」


 何としても残ってほしい。その一心で、叫び、肩を掴んで揺さぶる。

 この思い、届いてくれ。


 だが、その時だった。

 激しく肩を揺さぶったのがいけなかった。

 ブレアの体に巻いていたタオル。それが、揺さぶられたせいで緩み、ハラリと床に落ちる。

 当然、その下にあるのは、さっきと同じ一糸まとわぬ姿だ。


「あ────」

「き…………きゃぁぁぁぁぁっ!!!!」


 今度は、口を塞ぐ暇もなかった。

 ブレアの悲鳴が事務所中に響き渡り、その直後ドカドカと足音が近づいてくる。


 しかもだ。悲鳴をあげるブレアをなんとかしようとした俺は、そのまま勢い余ってその肩を強く押し、ブレアは転倒。つられて俺も、その上に覆い被さるように倒れ込む。


 脱衣所の扉が開かれ、ガストン、マリアーノ、エレナの三人が入ってきたのは、ちょうどそのタイミングだった。


「何があった────って、うわっ!」

「えぇっ!?」

「まぁっ!」


 俺たちの姿を見るなり、目を丸くする三人。


 ああ。俺、今から社会的に死ぬんだな。

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