第10話 微妙職【鑑定士】が実は有能だったらいいのにな〜

 ブレアにふさわしい職業探しはまだ続く。

 ビーストテイマーは残念ながら失敗に終わったが、ここでへこたれるわけにはいかない。

 何しろ職業はまだまだたくさんある。


 その中でも、ビーストテイマー以外でパーティー追放されるやつがついていそうな職業といえば、これだ!


「ブレアよ。鑑定士こそが、お前の輝く職業なのだ」

「鑑定士? それって、戦闘職じゃないですよね? 勇者パーティーなのに、いいんですか?」

「大丈夫だ。鑑定士ってのはな、この手の話じゃお約束の職業なんだ」

「はぁ……? とりあえず、アレックスさんがそう言うならやってみます」


 こういう時、ブレアの素直な性格は実にいい。

 早速転職の神殿に出向いて、鑑定士にジョブチェンジしてくれた。


 ただ問題は、これでどうやって無双していくかだ。


 とりあえず、色んなものを鑑定しなければ始まらないだろう。

 ならばと、俺はブレアを連れて、街にある骨董屋を訪ねた。


「よし、ブレア。とりあえず、ここにあるものを片っ端から鑑定していってくれ。良いものがあれば、パーティーの予算で購入することも考えよう」

「いいんですか? 練習するだけなら、買わなくてもいいんじゃ──」

「そんなことしたら、店の主人から冷やかしだって怒られるだろ。それに、価値あるものなら買っておいて損はない。思う存分やってくれ」


 実はこれには、ブレアに合った職業を見つける以外にも理由がある。

 実は最近、パーティーの資金が赤字ぎみなんだ。


 ここで、高値がつきそうな掘り出し物を見つけて購入。それを売っぱらって資金にすれば赤字は解消。物によっては、ガッポガッポのウハウハだ。

 もしかすると、こいつの無双ってのは金持ちになって好き勝手できるって意味なのかもしれない。


 そうして、ブレアが店の中にあるものを片っ端から鑑定しはじめて数時間。

 しかし、未だこれだという掘り出し物は見つからない。

 大きな店じゃないし、大したものは置いてないのかもな。

 そう思ったその時だった。


「あぁーっ! 凄いのがありましたーっ!」

「なに、本当か!」

「はい! これ、見てください!」


 興奮気味にブレアが見ているのは、東の国の芸術品、掛け軸だ。


「これは、東の国の絵の大家、オーキョ・マルヤマの掛け軸です! 値段をつけたら、数億ゴールドは下りません!」

「なんだとーっ!」


 それは、とんでもないものを見つけてしまった。

 値段を見ると、売値は100万ゴールド。普通なら、とても買うなんて考えないくらいの高額だ。


 だが、数億の価値があるとなると話は別。

 この店のオヤジ、骨董屋やってる割に見る目がないな。


「でかしたブレア。これで大儲けだーっ!」


 そうして俺たちは、100万ゴールドとっぱらいで掛け軸を購入。

 売り払うのは後日やるとして、とりあえず掛け軸を、パーティーの事務所でもある我が家に飾ることにした。





「諸君。これが、数億ゴールドの価値があるという、オーキョ・マルヤマの掛け軸だ。こんな機会でもなけりゃ滅多に見られないから、よーく目に焼き付けておくんだぞ」


 せっかくだから、他のメンバーにも拝ませてやろう。

 そう思って、全員を呼び出しての披露会。


 だが俺の予想に反して、それを見たメンバーの反応は冷ややかだった。


「なあ、アレックス。この掛け軸、いくらしたんだ?」

「100万!」

「はぁ? あんた、今のパーティーの財政状況わかってないの!?」

「ただでさえ、この家の家賃が高くて苦しいんじゃないですか。パーティーの事務所としても使ってるから、家賃の半分はパーティーの資金から出してるんですよ」


 ああ。こんな芸術品を前にして金の話とははしたない。

 まあ、俺も金目当てで買ったんだけどな。


「だからさ、これを売ったら数億ゴールド手に入るんだよ」

「本物だったらね。けどこういうのって、偽物もたくさん出回ってるんじゃないの?」

「何を言うか! 鑑定士になったブレアが本当って言ってるんだ。間違いないだろ。ここに、ちゃんとオーキョ・マルヤマの銘も入ってる」


 ああ。せっかくこんな凄いものを見つけたってのに、誰も評価してくれないとは。

 パーティー追放系のお約束だが、悲しいことだ。


 だがそこで、掛け軸をまじまじと見つめていたエレナが言う。


「あの。この掛け軸、オーキョ・マルヤマの作なのですよね? けど、ここに入っている銘、『オーキョ・アルヤア』になっているのですけど……」

「なぬっ!?」


 後でしっかりした人に調べてもらったところ、その掛け軸は真っ赤な偽物。

 本当の鑑定額は1000ゴールドもなく、こんな酷い贋作は見たことないと言われてしまった。


 なお、俺たちが行った骨董屋は偽物ばかりを置いている悪徳商人だったらしく、文句を言いに行ったらところ、既に夜逃げした後だった。


「やっぱり偽物だったじゃないのよ!」

「こんなガラクタに100万も払ったのか!」

「パーティーの予算として認められません! 二人で責任持って払いなさーい!」


 当然、俺とブレアには非難轟々。

 どうやら、鑑定士もブレアにふさわしい職業ではなかったようだ。




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