第7話 その純粋さが眩しい

「それで、少しは修行の成果は出たのか?」

「うぅ……そんなにすぐになんとかなったら苦労はないですよ。技は一日で磨けるようなものじゃないですし、筋トレだって、なかなか効果はありません」


 力こぶを作ってみせるブレアだが、本人の言う通り、相変わらずその腕は細いままだ。


「で、でも、修行を続けたら、きっといつかは力がつくはずです」


 そう言って、素振りを始める。


「僕、アレックスさんが引き止めてくれて、嬉しかったんです。こんな僕でも、必要とされてるんだって。だから、早く力をつけて、本当にパーティーのお役に立てるよう頑張ります!」

「ブレア、お前……」


 俺が引き止めたのは、自分がざまぁされないためなんだけどな。

 にも関わらず、こんな嬉しそうにされると、なんだか打算にまみれた自分が恥ずかしくなってくる。


 思えば、パーティー入りしてからずっと役に立たなかったにもかかわらず、ついこの前まで追放しようとしなかったのは、こんな真っ直ぐなところがすごいと思ったからだったんだよな。


 だが悲しいことに、どれだけ頑張っても肝心の成果が出ていない。

 かわいそうだが、こんなに努力してもどうにもならないのなら、やはりこいつには、戦士としての才能はないのだろう。


 しかし、しかしだ。

 そうなると、さっき閃いた考えは間違ってなかったのだろうと、より強く思えてくる。


「なあ、ブレア。お前、本当にパーティーの役に立ちたいか?」

「もちろんです。いつか皆さんみたいなすごい人になって、足でまといは卒業したいです」

「だったらさ、思い切って、戦士じゃなくて別の職業にジョブチェンジするのはどうだ?」

「えっ? ジョブチェンジですか?」


 キョトンとするブレア。いきなりこんなこと言われても、戸惑うよな。

 だが、ジョブチェンジすることでお前が無双できるようになるのは間違いないんだ。

 なにしろマンガのタイトルが、『勇者パーティーを追放されたけどジョブチェンジしたら無双できてザマァした件』だからな。


「そうだ。言っちゃ悪いが、このままお前が戦士を続けても、とても目が出るとは思えない。だが、こうして日々努力しているお前のことだ。自分に合った職業さえ見つければ、きっと大成する」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ、間違いない。お前は、ゆくゆくは俺や他のメンバーだって超えられるすごいやつなんだ。俺が保証する」

「アレックスさん……」


 ここでブレアが、どうしても戦士がいいなんて渋ったら、話は進まない。

 だから頼むから、そんなことにはならないでくれ。


 祈るような気持ちで、ブレアの反応を見る。

 するとブレアはプルプルと震え出し、目からは涙が溢れてきた。

 な、なんだ? 俺、何かまずいことでも言ったか?


「ぐす……。アレックスさんが、そこまで僕のことを気にかけてくれていたなんて。あ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます! 僕、ジョブチェンジします。もっといい職業を見つけて、アレックスさんのお役に立てるようになります!」

「そ、そうか……」


 震えも涙も、ショックでなく感動によるものだった。

 けどこんなにも素直に感謝されると、やはりどこか、申し訳なく思ってくる。

 俺がやってることって、全部自分の保身のためなんだよな。こいつの純粋さが眩しいよ。


 って言うかこいつ、プルプル震えて泣くところ、なんだか妙に色っぽいな。

 元々可愛い系の見た目だとは思っていたが、あのマンガを描いたやつ、男の娘枠でも狙ってたのか?

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