密着・異世界不動産屋さん!

砂漠の使徒

13時より ベルフェゴールさん 内見

「おぉ! 実際に見てみると思ったより巨大だな!」


「そうでしょうそうでしょう?」


 見上げるほどの超巨大建造物。

 それを見た人は、間違いなく『城』だと理解するだろう。

 そして、門の前には不動産屋さんの中田さんと……。


「これなら巨人族も頭をぶつけずに通れるな」


「はい、きっと快適に通れますよ」


 満足気にうなずいているのは、頭に二本の禍々しい山羊の角を生やした大柄な男。

 深紅の長髪と全身を覆いつくす真っ黒なマントが特徴的な彼こそが。


「だが、我はまだ満足しておらぬぞ? さて、この城は我が魔王城になるのにふさわしいかな?」


「で、では中に参りましょう!」


 魔王ベルフェゴール。

 それこそが、今回のお客様である。

 今住んでいる城が老朽化で崩れかけらしいので、新しい城を探しているらしい。


「いったいどんな内装か、楽しみだな!」


 ということで、魔王様の内見スタートです!


――――――――――


「こちらが魔王様の玉座の間でございます」


 長い長い階段を抜けた先。

 間取り図によると城の中央、最上階らしい。


「我をイメージしたかのような真っ赤なカーペットが敷かれた広い廊下、不気味な雰囲気のあるろうそくの列、それに玉座の後ろにあるステンドグラスがなんと美しいことか!」


 感動で目を輝かせて少年のようにはしゃいでいる魔王様。


「ええ、あちらは以前西の都一の職人と呼ばれた者が作ったものでして、500年前からあの輝きは失われておりません」


「そうかそうか。まるで我のようだな。気に入った!」


「ありがとうございます。では、次のお部屋へ……」


 え、やけに回るのが早いって?

 だって、なにしろ何百・何千もお部屋がありますから……。

 内見だけでも数日がかりなので急ぎ足で回らなきゃいけない、とは不動産屋さんの中田さんの言葉。


――――――――――


「なんとこの部屋には大きな浴槽が設置されており……」


「なるほど。半魚人やセイレーンも快適に住めるというのだな?」


「はい、さようでございます」


「それはいい。彼の者共はいつも水場に困っておったからな。これでストレスない生活を送らせてやれるぞ」


 さすが魔王様だ。

 部下のことも気にかけている。

 こうした数多の種族に対応した物件を見つけるの、大変だろうなぁ。


――――――――――


「む、この何もない廊下はなんだ?」


 一行は、なんの装飾もないシンプルな石造りの廊下にたどり着いた。

 たしかに、見渡しても小さなろうそくが並んでいるのみだ。


「実はこの廊下には罠が敷き詰められておりまして」


「侵入者対策というわけだな。よかろう、冒険者の対処には困っておったからな」


「たとえば、この石を踏むと……」


 今回は安全のために遠くから小石を投げる。

 それが地面に当たると、石が沈み込んだ。

 これが罠が起動した証だ。

 直後にどこからか仕掛けの動く音がして……。


「このように、天井から針が勢いよく飛び出して冒険者は串刺しに……」


「いかん!!!」


 すごい迫力だ。

 針の飛び出す勢いよりも恐ろしい魔王様の叫びが静かな廊下に響いた。


「は、はい?」


「殺してはならぬのだ! 冒険者には経験を積み、より強くなってほしいのだ。そう、我と互角に戦えるほどにな」


「はぁ……」


「ゆえに、命を奪うこのような仕掛けはあってはならぬのだ!」


「そ、そうですか……」


 う〜ん、残念。

 どうやらこだわりがあったみたいですね。

 先程までのニコニコ顔はどこへやら。

 魔王様、すっかり不機嫌に。


「我はこんな城認めん! 帰る!!」


「あ、待ってください~~~!!!」


 こうして、今回の内見はいきなり終わってしまいました。

 不動産屋さんとしては悲しいけれど、お客様からしたら内見で事前に知れてよかったんじゃないかな?

 みんなもこれから長く暮らす予定のお家の内見はしっかりしようね!


(了)

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