住宅の内見
夕日ゆうや
赤い住宅
「住宅の内見ですか? いいですよ」
担当者の鈴木が微笑み、私の前に資料を広げる。
「まずはここ。安くて駅からも近い。こっちは駅から離れているけど、スーパーや病院が充実しています」
手際良く住宅を見せてくれる不動産屋さん。
「ええと。じゃあ、今日はこことここを見たいです」
「え。その二つはあまりオススメできませんよ?」
私が手にした二つは異様に安く、駅からも遠い。
だが、私には考えがあった。
腕を組み、熟考する彼。
「その、いいにくいのですが、事故物件でして」
「待ってました」
「ええ……」
私の気持ちに添うような物件。
まさに理想郷だ。
私の求めていたもの全てがそこには詰まっている。
「本当、怪奇現象が起きるとか、幽霊が見えるだとか。一週間で精神に異常をきたす人が多いんです。あなたのような方には……」
私情が挟んだのか、彼は言葉に詰まる。
「いいです。私は自分の手で選ぶのですから」
「分かりました。どうなっても知りませんよ」
担当者は苦い顔をして、一緒に車に乗り込む。
「ここから十分ほどで着くので我慢してください」
ヤニ臭い車だ、と想った。
まず最初に通されたのはまっ赤な内装の酷く古びたマンションだった。
私は内見を始めると、周囲との違いに驚く。
「本当に事故物件なんですね」
静まり返り、霊感がうごめく。
かなりの幽霊が集まっている。
「決めました。ここにします」
「え。いいですか?」
「はい。もう迷いはないです」
「……分かりました。では、うちで契約書にサインを頂こうと想います」
担当者はそう言い、タブレットを出してくる。
最近はなんでもかんでも電子化されているのね。
そう想いながら、私はタブレットに名前を記入する。
「これからの生活が楽しみです」
「そうですか」
困ったように眉根を寄せる担当者。
私は霊と一緒に暮らすのが楽しみな、変人なのだ。
※※※
『西区のマンションで若い女性の遺体が見つかりました。性的暴行を受けた形跡があり、警察は現在不動産会社に勤める
住宅の内見 夕日ゆうや @PT03wing
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