報告

「……というわけでついに昨日入籍しました」

「おお、やっとかよ!」

 照れる颯の後ろから肩を組む虎太郎が言葉をかけた。千一もしきりにうなずいている。彼もあの後相当苦労したようで(主に虎太郎の鬱憤晴らしに付き合って)、その疲労感がにじんでいる。

「ほんと、めでたいよな。でもなんで一週間後なんだ?」

「わたしの誕生日を待ってたんだよね」と瑠璃子が遅れて会話に入ってきた。誇らしそうに彼女は左手を見せた。その薬指にはアクセサリーショップで一時間悩んだ無難なシルバーのリングがはめられていた。本来は校則違反となるアクセサリーだが、既婚者の証しとして地味なデザインのものなら、と着用が許可されたのだった。生徒指導の担当教師が生徒たちの熱意に押されて働きかけた結果である。

「なるほどな~」

 輝くリングをみつめてしみじみとつぶやく虎太郎に、颯はこの前の騒動を思い出し、申し訳ないやら気恥ずかしいやらでいっぱいいっぱいでうつむいた。


 そんな虎太郎が何気なく爆弾発言を投下した。


「ルリ公が人妻かあ。すごいな」

「あっ」

「え……?」


 チャラ男の一言で一瞬にして場が凍り付いた。


「ひ、ひとづまじょしこーせー?」と颯は汗だらだら。

 不安と妄想は止まらず早くもパニックに陥った。しきりに手を結んでは開いてを繰り返している。ついには顔面が蒼色になってしまった。

 この一週間前から今日まである種よく見た・・・・光景である。

 そんな彼を見て事態を察した虎太郎はすぐに謝った、……のだが。


「ど、どどど、どーしよ!? 僕の瑠璃子が、妻が、寝取られてしまったら~~!! うわああああ、脳が破壊されりゅうううううう!?」

「もおお、颯ってば早まんないで!」

「虎太郎はまた余計なことを……」

「す、すまん! ほんとに悪かった!」


 髪をかきむしり例の発作を出した颯に一同は叫んだ。


「「「だから止まって、颯くーん!!!!」


 颯の早とちりは以降も続く。誤解しそうな場面でこれまた絶妙な状況が生まれてしまい、彼の勘違いはエスカレート。勘違いの続出に当事者である瑠璃子と被害者にされがちな虎太郎をみながら、巻き込まれる千一はやれやれと首を振った。

「まったく、処置なしだね」


 周囲は思った。


(早くくっつけ、あ、くっついてんだわ)


 迷惑をかける颯の思考は今日も今日とてブレーキが利かないのであった。


 <完>





 おまけ

 多摩虎太郎君は後日、颯に勇気を貰い、別れた彼女と痴話げんかでこじれていた関係の修復に成功。よりを戻せた。ヨカッタネー。

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1818 冬木雪男 @mofu-huwa

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