白鯨と呼ばれる男VSバッファローの群れ

司馬劉青

白鯨と呼ばれる男VSバッファローの群れ

白鯨と呼ばれる男には三分以内にやらなければならないことがあった

バッファローの群れを生物として倒すことである



アフリカ サバンナ 某所

男が1人立つ

その姿は発光している。

もちろん電飾がついてる訳ではない。

肌、服、髪が全て白いのだ。その白はアフリカの容赦のない日光を眩く反射している。


しかしその特徴をかき消すほど男はただただ巨大であった。

姿かたちは人間であったが、その大きさに、見た者の脳は「実在」を否定する。


縦はもちろん厚みも白の視覚効果により「膨張」という言葉が浮かぶ厚さである。

首の後ろに肩があり、胴は巨木を思わせ、脚の肉量は成人女性ひとりと同等である。



その白さ、巨大さから男はいつしか「白鯨」と呼ばれている。



白鯨の前方500m先

向かってくるは黒の波、バッファローの群れである。



バッファローは一体で全長350cm、体重1t近くの偶蹄類。体格も十分な凶器なのだが、頭にはこれまた大きな角が付く。生まれながらにして武器を持ち歩いているのだ。

タチの悪いことに、動くもの全てに牙を向く気性も併せ持っている。

それが一体ならず数百頭の群れをなして時速60kmで走っているのだ。ただの生物なら「逃亡」に脳を支配されるだろう。


だが白鯨は違う。バッファローの群れをチャレンジャーとして待っている。

心待ちの話ではない。彼を取り巻く空気が伝えている。それは「気」や「オーラ」といった類に懐疑的な人間にも感じ取れる。本能に訴えかけるとはこのこと。


野生を失った人間でも伝わるこの空気、バッファローたちが無視するはずがない。

彼らは移動の為でなく、目の前の白鯨を倒すために400m、300m、200mと近づいてくる。

あと100mかといったところで白鯨は動き出した。


躍動。白鯨は空高く跳んだのである。


バッファローたちは混乱した。

サバンナに飛翔する生物はいる。

サバンナに巨大な生物はいる。

しかし

サバンナに飛翔する巨大な生物はいない。


一部が空を見上げ始めたとき、白鯨は群れの中心に向かって背を向け落下していく。

落下スピードは高度に反比例して上がっていく。

悲しきかなバッファロー。倒すべきものは上にいるが前へ進む流れは止められない。


ついに白鯨。群れの中央にいるバッファローの胴体に強烈なバックアタックを決める。


このバックアタック。ただの落下と形容することもできる。しかし彼のこれまで培った頑強な肉体、飛翔したことによる位置エネルギー、バッファローの胴体を狙う身体の動きがこの落下を効果的な破壊行動とする。


このバックアタックにより当たったバッファローはもちろん走れない。骨のいくつかは使い物にならないからだ。

そして周辺のバッファローはアタックの衝撃により落下した白鯨に対して空高く打ち上げられる。その様子は水しぶき、いや「バッファローしぶき」といえる。

さらに外縁にいるバッファローたちは倒れたバッファローやバッファローしぶきによりバランスを崩しこれまた一匹、また一匹と倒れていく。

次々と群れが倒れていく様子。黒い波が打っていると言えた。


白鯨はバッファロー群れという海を泳いでいる。


この一撃で群れの統率は失われたが、白鯨に向かうバッファローは残っている。

個々は落下から立ち上がった白鯨に闘志を剝き出しに向かっていく。その数は数十はくだらない。

しかし白鯨はこの状況を「危機」とは思わない。彼には四肢ととっておきの「顎」があるからだ。


向かっていくバッファローたちは白鯨に次々足蹴にされていく。四肢で対応されるバッファローたちは幸運である。しばらく動けなくなるだけだ。

顎で対応されたバッファローたちは首を噛まれ、そのまま顎で勢いよく放り出されるのだ。

その衝撃により深い外傷は免れぬ。

サバンナで貴重な水分がとめどなく体内から流れ出る。バッファローの救急外来はここにない。


立っているバッファローはとうとう最後の1匹となった。

群れの中でもひときわ大きい個体である。きっと「主」なのであろう。


生物にあるまじき「間」がこのバッファローにはあった。この冷静さが彼を主にしたのだろう。

白鯨はそれに対し、急ぐことなく悠然とたたずんでいる。


間に亀裂が入る。主のバッファローが猛スピードで突進した。そのスピード足るや他の個体をはるかに凌駕している。

白鯨はそれに対し両手は構えるが先ほど見せた飛翔でよけるなどの動作はしない。

見切れないのではない。受けて立つのである。


バッファローと白鯨距離が0となる


バシィィィィィィィィ

けたたましい音になる。


見ると白鯨はバッファローの角を掴んでいる。

白鯨はバッファローの渾身のインファイトを受けきったのである。

掴んだのも束の間、白鯨は角ごとバッファローを高く持ち上げ、持ち手を交差し、バッファローの背中を打ち付ける。


バキィィィィィィィ


生物から聞こえてはいけない音がする。

この間2分30秒

白鯨は縄張り争いに勝利した。




ところでなぜ白鯨はバッファローの群れと戦ったのか。

生物として力試し。人間として興味本位。

それも理由のうちに入る。


たおれた主のバッファローの足にはサバンナの自然にあるまじき人工物が取り付けられている。

白鯨はそれを取り外し空高く投げる

その物体は空中で爆発音とともに大きく弾ける。

夜見上げれば花火になったかもしれぬ。


他のバッファローたちの足元にも人工物が取り付けられている。

後に判明したことだが、主のものとは別の起爆剤とともに爆発とともに放たれる生物兵器がおさめられていた。



彼が最初に立っていた後方500mには世界で随一の軍事力を誇る大国Aの機密軍事施設がある。

バッファローたちは過激派組織に神の名のもと利用され、兵器として仕立て上げられ、施設へ誘導されていたのであった。

それを情報筋から知った白鯨はそれを止めるべくバッファローの目の前に現れた。


もしこのバッファローの群れがあのまま直進したのならば

まず大国Aの「機密」がもれ、優秀な人材と武器を失い軍事的大打撃を受けただろう。

これをきっかけに過激派組織と大国Aの争いは避けられず、またこれを隙にと大国Aを良く思わない第3勢力が参戦をしてくる。

大国Aを巻き込んだカオスは世界の経済、インフラに大打撃を与える。

あわや世界を、「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」が押し寄せるところだったのだ。


白鯨は闘いは好きだが戦いは苦手だ。

バッファローたちを兵器として処理するのではなく、生物として縄張り争いをして倒す。

死ぬことが定められた悲しきバッファローたちにできる白鯨の精一杯の動物愛護であった。


とある小屋にて

男たちは困惑していた。

神の名のもと罪深き大国Aに裁きが下った連絡が入る時間になっても通信機から何も聞こえないからである。

「どうした、通信機に異常でもあったか?」

「別の通信機の受信はできるから故障ではないはずだが」

「早く、我らに福音を聞かせてくれ、罪びとたちの懺悔の声を聞かせてくれ」

各々話す中開くはずのない扉の、けたたましい蹴破られる音がする。


白鯨と呼ばれる男には三分以内にやらなければならないことがあった

狂信者たちを縄張りを荒らした生物として倒すことである。

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