君と僕は相思相愛

2121

君と僕は相思相愛

 君には三分以内にやらなければならないことがあった。僕に食事を与えることだ。


 君は朝に弱くて、いつも少し眠そうにゆらゆらしながらバケツを持っている。時間に追われているから足だけは早足で、よく時計を確認している。時折溜め息を吐いているけれど、僕の前に来ると清々しい青空を背景に花を咲かせるみたいに笑う。素敵な笑顔を向ける君は僕のことが好きみたいだ。そんな君をもちろん僕も好きになる。君に褒められたくて、僕は食事を残さずいっぱい食べてしまう。君は僕を優しく撫でて、愛おしそうに目を細める。僕は嬉しくなって唸りながら角を掲げると、君は目を丸くする。宥めるように僕の頭を君は撫でると僕は気持ちよくなって君に擦り寄る。満更では無さそうに、君は笑う。僕たちは相思相愛だった。昨日までは。


 今日も君は食事を持ってやってきた。もうすぐ僕のところへやってくる。君のことを目で追っているときに、僕は見てしまったのだ。そのどこの馬とも知れない奴に君が優しくしているところを。

 近くに新しい奴が来たのは知っていた。新参者に優しくしているというだけならば良かったのに、君は僕の知らない笑顔をそいつに向けている。

 僕は一目で分かった。君はそいつに特別な感情を抱いている。僕に向けるものとは違う、特別なものを。

 僕は怒った。

 優しくしていたのは、僕だけではなかったのか。僕だけが好きではなかったのか。

 否、だけではなかったのか。

 同じ場所は同士がいた。僕たちは集団で行動しているから、僕に向ける笑顔は同士に向ける笑顔であり、同士に向ける笑顔は僕に向ける笑顔である。集団で生きるさがゆえに僕は一匹であり、同士も僕なのだ。

 僕たち以外を好きな君は君じゃない。

 これまでの思い出が全て色褪せていく。

 優しくしていたのも全部嘘だったのか。

 あの笑顔もまやかしだったというのか。

 僕たちには三分以内にやらなければならないことがあった。僕たちを愛してくれない君と君が好きな馬とままならないこの世界を全て破壊しなければ気が済まぬ。

 僕たちは蹄で地を二度蹴る。行ける。生まれてこのかた狭いところにいたから長く走ることは無かったが、この足は、この体は、このバッファローの強い肢体は、地をどう蹴れば早く走れるのかを知っている。この角をどう奮えばいいのかを知っている。

 行こう、仲間よ。僕を先頭に全てを屠るのだ。

 忌々しき動物園の鉄柵を薙ぎ倒し、馬に微笑む君とすかしたそいつを二本の雄々しき角を持ってして破壊するのだ。全てを破壊する。そうだ。君が愛してくれないこんな世界なんて、全て無くなってしまえばいい。

 角が折れ、四肢の骨が砕け散るまで、僕たちは破壊し続ける。

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