お母さんは突然訪問してくる。

カエル

いきなり来ないで!彼女がいるから!

僕には三分以内にやらなければいけないことがあった。それは、彼女を隠すことである。

つい先ほど、お母さんから『近くまで来たから今から寄るね。』とメッセージが来た。僕は慌てて『後、どれぐらいで着く?』と送り返すとすぐに『後、1、2分で着くよ。』ときた。僕の部屋は6階にあって、階段でしか上がってくることができないので僕の足で上がってくるのに1分以上かかる。なので、3分は来るまでに時間があるはずだ。

「どうしよう!」

どうしたらいいのか分からなくなりすぎてつい声に出してしまった。あまり、大きな声ではなかったはずなのにすぐ横に座っていた彼女には聞こえていたようで、僕の方を見て声をかけてきた。

「大丈夫?」

「うん。母親が来るらしい。」

「えっ!帰った方がいい?」

彼女は僕の目を見ながら聞いてきた。その表情がかわいくてつい見惚れてしまいそうになったが、そんな時間はない。

「いや、もう遅いし1人で帰すのは危ないから、あとで僕が送って帰るよ。だから、どこか隠れていて。」

ついさっきまで2人でゲームをしていたこともあり、気が付かなかったけれどお母さんからの連絡を見た時のスマホに表示された時間を見るとすでに21時を過ぎていた。なので、今から1人で彼女を家に帰すのはなしだ。

「うん。それはいいけど、どこに隠れたらいいの?」

「えっと……」

僕の部屋は1ルームで、玄関を入ってきたら今いる場所までの間に目隠しになるものが存在していないなので、この部屋にそのままいてもらえば確実に見つかる。

脱衣所の奥にトイレがあるから脱衣所に隠すことはできないし、お風呂場は扉を開けられればすぐに見つかってしまう。浴槽の中に隠れてもらって蓋を閉めればすぐには見つからないだろうけれど、彼女が来る前にお風呂に入っていたので、浴槽にはまだお湯がはってある。だから、浴槽に隠すのは難しそうだ。ベランダは寒いし、そこから移動もできないから却下で、となると今いる部屋のどこかに隠すことになる。

「ちょっと待ってね。」

僕はそう言いながらクローゼットを開けた。

「うん。ここは無理だね。」

「だね。」

知ってはいたがクローゼットには、人が入っておけるスペースは存在していなかった。というか、存在していたら部屋の隅に衣装ケースに入れてものを置いていない。

「炬燵の中はすぐにばれるし、どこがいいかな?」

「う~ん。ねえ、もう私が会うというのはどう?」

「それは、いいの?多分、質問攻めにあうと思うよ。そして、そのあとめちゃくちゃかわいがられるだろうけど……お母さんは女の子が欲しかったらしいけど、僕のところ男子しか産まれなかったから、しかも、男子3人。」

「あ、そんなに話しかけられそうな感じなの?」

「うん。しゃべらないと死んじゃうの?って聞きたくなるぐらいずっとしゃべってる。」

「それは……うん、隠れとく方向でお願いします。」

彼女はそういいながらぺこりとお辞儀をした。そもそも、彼女が極度の人見知りでなければ、もしくは、母さんがそこまでしゃべる人でなければ隠れてもらう方向で、考えはしなかったであろう。だって、彼女とは付き合ってはいるが家でゲームをする以外に特に何かしているわけではない。友達に聞かれて話したら、それ本当に付き合っているの?と聞かれたこともあるぐらいに健全なお付き合いをしている。

「どこがいいかな?」

「う~ん。」

彼女と見つめあいながら考えていると

「ピンポン、ピンポン」

とインターホンが鳴った。

「えっと、来たみたい。」

「だね。どうしようか?」

彼女は冷静なふりをしようとしているけど、体が震えていて明らかに無理をしているのが分かる。

「あ、ベットの中に隠れていて、そこならお母さんの目線よりも高いから見つからないと思う。」

僕はそう言いながら彼女をロフトベットの上にあげて布団を頭からかぶせた。たぶん、冬布団で分厚いからばれないと思う。

「お~い!来たよ!」

彼女に布団をかぶせると同時にお母さんが待ちきれなくなったようでドアをたたきながら声をかけてきた。

「は~い。今行く!」

僕は声をかけながら玄関のカギを開けに向かった。彼女を隠すことに必死になりすぎて、彼女の手荷物を隠すのを忘れていることに気が付かずに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お母さんは突然訪問してくる。 カエル @azumahikigaeru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ