自分自身の目で確かめてから
大黒天半太
下見というかチェックは大事
住宅の内見は、和気あいあいと進んでいた。
買い手も乗り気だったし、売り手側の営業マン・門田も自信を持って売れる商品だったから、セールストークも弾んでいる。
具体的な質問もかなり多く出て、内見客もかなり現実味を帯びた検討に入っていることが、門田には伺えた。
見るべきところ、
谷口は一安心して、内見について来た二人の同行者を見た。しかし、二人ともやや顔がひきつっている。
その内見客・谷口の二人の同行者、友人だと言う牧田と姪だと言う由紀子は、谷口とは明かに意見が異なるようだ。
だが、この場で言わない、言えないのはよくわからない。
門田の経験から言っても、不満や疑問点は、早目にはっきりさせ、入居時までに解決出来るのか、逆に早急な解決が難しいなら価格(値引き)交渉の材料にするのかの次の段階に入ることが多い。さもなくば、似た条件で他に紹介できる物件は無いかと尋ねられるものだ。
門田は、内見が始まる時に感じた、同行者二人の顔を何処かで見たことがあるような感覚を、思い出した。事務員の若い女の子・美紀の呆れたような顔と言葉を。
「これ、何ですか? 業界情報というか、怪文書の類いですよね?」
それは、定期的に業界の速報紙が送られて来る会社から、不定期に送られて来る怪しげなコピーだった。
それには、スーツを着込んでいる牧田の写真と、内見・内覧会で発言に注意の記述。そして、彼に付けられた二つ名が書かれていた。
「内見探偵……」
思わず、門田は口から漏れた単語を押し留めるように、口に手をやった。もう、手遅れだが。
「ふーん、今はそんな名で呼ばれてるのか?」
牧田と名乗った男は言い、不敵な笑みを見せる。とぼける手もあったが、むしろ手間が省けたと言う顔だ。
「まぁ、以前の『内見荒らし』とか『内覧荒らし』よりはマシだな。こっちは荒らしてるつもりは皆無だし、むしろ、会社が瑕疵を隠してあんた達に売らせようとしてるなら、あんた達も、詐欺の片棒担がされた被害者だろ!」
どんなに周到な隠蔽をしようと、それを僅かな内見の間に見破る、いや、隠蔽をするからこそ、発生する論理の歪みを看破する内見探偵。
業界の暗部を白日の下に曝す彼に出会ったのは、運命かも知れない。
「あっ!」
門田は、思い出さなくてもよいことを、このタイミングで思い出した自分を、自分で殺したくなった。
内見客の姪・由紀子の写真を何で見たかも思い出してしまったのだ。
「……『霊感探偵』……」
不動産関係業界で最も恐れられる 二人の探偵が、揃ってしまった。
転職を考えよう。門田は、家族の顔を思い浮かべて、そう心に誓った。
自分自身の目で確かめてから 大黒天半太 @count_otacken
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