全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ

かめかめ

○○には三分以内にやらなければならないことがあった

 〆切には三分以内にやらなければならないことがあった。つまりそれは〆切である。

 そう、〆切は今まさに、風の前の灯火のようなものだった。

 さながら、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのような時間を逃げかわし、〆切は三分以内にどうしてもやり遂げなければならないのだ。


 この事態を招いたのは、やはり〆切のせいであった。

 当初は易しい問題であると高をくくっていたのである。ところが、封を切ってみると〆切は厳しかったのだ。

 まるで小学生時代に九九を覚えることが出来なかった生徒を立ちっぱなしにさせて延々と「いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん……いんしが……いんしが……印紙が足りないと運転免許証の更新が出来ない」とうわごとを言うまで許さなかった教師のごとく厳しかったのだ。


 〆切には二分以内にやらなければならないことがあった。つまりそれというのは〆切である。

 〆切はすべてを破壊する。平穏も静寂も故郷をしのぶワビサビも、バッファローの群れに蹴りまくられたタンブルウィードのごとく転がり散るのみなのである。

 嗚呼、〆切には〆切により中学生時代に好きだった隧道探検隊の紅一点のスカートがパンツに挟まって丸見えだった太ももにキスマークがついていて大失恋したにも関わらず胸の高鳴りが止まらなかったときのような絶望と高揚感がもたらされたのだ。

 それは一種の感情との邂逅であったが、ゆっくりとその邂逅を味わうことも出来ず、ただ〆切としてそこに存在するほかなかったのである。


  〆切には一分以内にやらなければならないことがあった。つまりそれというのは〆切である。

 〆切は〆切に高校生時代の首が短かったがために制服の詰襟が顎に食い込み二重顎とあだ名されたときのような屈辱からか被虐的な愉悦からか区別できない心情を呼び戻すのだ。


 そしてとうとうその時は来た。

 運命はこのように扉を叩いた。

「先生、時間です! 観念して扉を開けてください!」

 と。




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