三分クッキング

朱ねこ

ホワイトデー

 魔法使いのワドには三分以内にやらなければならないことがあった。


 彼女が帰ってくるまであと三分。それまでにホワイトデーのお菓子を用意しなければいけない。


 今日がホワイトデーということをすっかり忘れていたと伝えることも考えた。しかし、ミリィの残念がる顔を見たくはなかった。

 もしかしたら、期待されていないかもしれない。それでも、マイナスな可能性はない方がいい。


 お菓子は、簡単なものがいいだろう。三分で作れそうなお菓子といえば、ハート型にいれかえたチョコだろうか。

 ワドは首を捻らせる。


「そうだ!」


 ちょっとレベルをあげて生チョコにしよう。

 ミリィに褒めてもらえる妄想をして、ワドの口からだらしなくよだれが垂れる。


「んへへ。頭撫でてもらいたい……」


 放置していたハンカチでよだれを拭って、腕まくりをして気合いをいれる。


「よーし、出でよっ!」


 白い煙と共に、生クリームと板チョコ、バターが現れる。


「えーと? 混ざれっ!」


 ワドは生クリームと板チョコとバターをボウルに移し、泡立て器に混ぜさせる。


「あれ?」


 泡立て器を動かしても板チョコもバターもかたいままだ。混ぜるためには、溶かさなければいけないことに気づく。

 溶かすためには、火にかければいいだろうとワドは考える。


「火よっ」

「ただいま〜」


 ボウルの中のチョコと生クリームに火を灯した瞬間、玄関口から明るい声が聞こえてくる。


「んげっ、ちょっ、まってて〜」


 とっくに三分は過ぎていた。

 ワドは慌てて調理場に続くドアをしめる。


「なにこのこげくさいにおい?」

「んぎゃっ!」


 ミリィの魔法で起こした風によって、ドアが吹き飛び、ワドに激突する。

 さらに、火が他所へ広がっているが、目を回しているワドにはどうにもできない。


「水よ」

「びゃっ」


 大量の水が鎮火させる。


「ワド、何してたの?」

「えっえっと、あのですね、お菓子作りをしてました……」

「お菓子? ホワイトデーだから?」


 ワドは勢いよく首を縦に振る。

 ミリィは頬に人差し指を当てて考え込む動作をする。


「んー? ホワイトデーのこと思い出したのついさっきなんでしょ? だから、急いで作ろうとしてた」

「うっ、そうです……」

「まったくも〜、気持ちは嬉しいけど、無理しなくていいし、正直に言ってくれていいのに」

「悲しませるかなって思って……。ごめん」


 ミリィには何もかもバレバレで、ワドは肩を窄ませる。

 ミリィは手に持っていた箱をワドに見せてにっこりと笑う。


「ワドのことだから忘れてるかもって思ってね、ケーキ買ってきたの。さきに部屋の片付けしないとだけどね」

「うううっ、ミリィ大好き〜!!」


 ワドは目に涙を溜めて、ミリィに抱きついた。


 本日も幸せな一日だったとさ。

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三分クッキング 朱ねこ @akairo200003

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