第2話 元カノは成長する
その後は特に話すこともなく、お互いに黙り込んでいると俺たちは担任になるらしい先生に呼び出され体育館へと向かった。
入学式は予定通りに滞りなく行われた。そして、教室へと帰ると先生が戻って来るまで自由時間ということで早速新たな友達を作ろうと声をかけて回るものや、本を取り出し自分の世界にハマるものなど、各々が好きにしていた。
特にこれといってすることのない俺が周りを見渡してボーっとしていると、1人の女子生徒がこちらへと向かって歩いてきた。
「やっほー、
「優ちんはやめてって何度言ったら分かるの? 青葉」
「忘れてた。ごめんね、優ちん」
「謝りながら過ち繰り返してたらキリがないんだけど!?」
どうやら、青葉というらしい女子生徒は隣の席の優香に用事だったらしく親しげな様子で会話を交わしている。あの頃の優香だったら考えられないことだ。
「ねぇねぇ、そう言えば君さっき優ちんと話してたよね? 知り合いだったりするの?」
「えっ?」
そんなことをぼんやりと考えていると蒼葉さんが俺の腕をツンツンとつつきながら突然そんなことを尋ねてくる。
「あっ、ごめん。その前に初めましてだったね。私は青葉。葉月 青葉。優ちんとは中学2年生の頃からの友達。よろしくね」
「俺は
「うん、よろしく!」
「...」
元気にニコニコと笑顔で手を差し出してそんな挨拶をしてくるので、俺がそれに対して名前を言い手を差し出すと葉月さんはガシッと手を掴みブンブンと手を縦に動かす。初対面の相手にここまでフレンドリーに来るとは、相当コミュ力が高いらしい。
しかし、困ったことだ。こうしてグイグイ来られるのが苦手な俺としては、どう対処していいのか分からない。本人に悪気は一切ないだろうし、完全に俺の個人的な得意苦手なのでどうしようもない。
「私の趣味はスキー。雪が大好きなんだ。葵くんはなにか好きなこととかあるの?」
更に葉月さんは前のめりになり目をキラキラと輝かせながらそう迫ってくる。
「え、ええっと俺は...」
「青葉。その辺にしといてあげて。代わりに私と話そうか?」
「うん、話す!」
俺が慣れないタイプに苦戦していると、どうやらそれを察してくれたらしい優香がそんなこと言い葉月さんを俺から引き剥がしてくれた。にしても、優香ってこんな気がきく奴だったっけ? むしろ、前は空気なんて読まずに好き勝手するタイプだった気がするんだが。
助かったのは事実だしここは素直に感謝しますしておけばいいか。
そう思い、俺が葉月さんに見えないようにこっそりと優香に向かって口パクで「ありがとう」と伝えると、優香は一瞬目を丸くした後に「全然気にしなくていいよ」と同じように口パクで返してくる。
「ところでさぁ、結局2人はどういう関係なの? 優ちんから話しかけてたの見てたし、知り合いじゃないことはないと思うんだけど」
俺と優香が隠れてそんなやり取りをしていると、優香と話していた葉月さんが再び俺の方へと目を向けそんなことを尋ねてくる。
事実を伝えるなら元恋人だろう。しかし、それを初対面の葉月さんに言うかは判断に迷うところだ。というか、単純に場の空気が悪くなり兼ねない。悪手だろう。
しかし、優香は嘘をとことん嫌う。どんな場面でも真実のみを話す。例え、そのせいで場の雰囲気がどんなものになろうとお構いなしに...。なので、ここで下手に嘘を言えば優香の反感を買い真実を言うよりも雰囲気が悪くなる可能性もあるわけで。
「彼と私は仲間よ」
「仲間?」
「そう、同じ趣味を持つ仲間。中学一年の頃のね。まぁ、彼は中二になると同時に引っ越していっちゃったから青葉が知ってなくてもおかしくないけど...」
「へぇ〜。なんだ、もう少しくらい深い関係なのかと思ってた」
俺が果たしてどう答えるのが1番良いのか決めかねていると、優香はなんてことないようにそう答えた。
昔の彼女からは考えられない答えに俺が固まっていると、優香はそれに気づいたらしく口パクで「なに? 嘘は言ってないよね?」と訴えかけてくる。
いや、そうじゃなくて俺が驚いているのはそういうことじゃないのだが。
「はい、皆さん今から色々と説明をしようと思うので席に着いて各々の机の上に置いてある紙の一枚目を見てくださいね〜」
そんなことをしていると、先生が入ってきてそうクラス全体にそう告げるのだった。
*
あの後、学校の校則や諸々の重要な書類を書いて持ってくること等のお願いなど一通り事務的な事を終えた担任は「じゃあ、初日ですし皆さんも疲れてるでしょうから自己紹介は明日にしましょう。聞きたいことがあったらなんでも言ってくださいね。では、また明日」とだけ言うと足早に教室を去っていった。
要するに今日は解散ということらしい。そんなこんなで俺が荷物をまとめて帰宅の準備をしていると、今度は陽のオーラを見に纏ったイケメンな男子生徒がこちらへと歩いてきた。また、優香の知り合いだろうか?
「こんにちは、僕の名前は
すると、俺と優香2人にニコニコと満面の笑みでそんな挨拶をするイケメン。優香の知り合いではなかったらしい。しかし、突然来て何の用なのだろうか?
「それでね、これから親睦会を兼ねてここの近くのカラオケにみんなで行くんだけど、良かったら君たちもどう?」
なるほどそうゆうことか。しかし、これはちょっとマズイかもしれない。優香は確か大人数やうるさい場所はとても嫌いだったはず。
そして断りの文句は大抵決まって強烈なものが多く、そのせいで孤立することも多かった。心配である。
「あ、いや、えっと私は...」
しかし、そんな俺の心配とは反対に隣の優香は答えにくそうに困っていた。優香は優柔不断なタイプではないし、初対面に臆するようなタイプでもないから状況から考えるに、なるべくやんわり断りたいが、用事がある等のいった嘘も言えず困っていると言ったとこだろうか。
どうやら、先程もそうだったが彼女は気をつかうことを覚えたらしい。とはいえ、2年も経てば色々と変わっていてもおかしくないか。まぁ、嘘はつけないところが彼女らしいと言えば彼女らしいが。
「悪い、俺とこいつ久しぶりの再会なもんで、これから食べに行くんだ」
「!?」
「あぁ、そういうこと。そりゃあ、こちらこそ邪魔して悪かったね。じゃあ」
しょうがないので俺がそう助け舟を出すと杉田は納得したような顔と同時に、少し申し訳なさそうな顔をすると手を振って去っていった。俺は嘘をつけなくないからな。まぁ、杉田がいい奴そうだったので多少の罪悪感はあるが。
「なんであなたが?」
「なんでって困ってたろ? お前、うるさい場所とか苦手だし...別に本当に行く気はないから安心してくれ」
「...そう、ありがと。助かった」
すると、優香は眉尻を下げフッと笑いながらそんなことを言う。何故か、俺の耳元で。なんか、優香にこうもお礼を言われると変な気持ちになるな。
「...あの、それであなたが良かったらでいいんだけど...」
「? どうした?」
優香が妙にモジモジしながらなにかを言いにくそうにしているので、俺はハテナを浮かべる。
「その本当になにか食べに行くのはどう? そうすれば杉田君に嘘をついたことにはならないし、あなたが気にやむこともない」
ようやく、決心がついたらしい彼女はそんなことを俺に提案する。どうやら、俺の思考回路を読んでの提案らしい。
「別に俺は全然いいが、お前はいいのか?」
だが、俺と優香の別れ方は最悪で関係は良いわけないので、彼女が無理して提案してないかと俺は危惧するが、
「2年も前のことだよ? もう、そんなに気にしてないし...今の私と朝日となら落ち着いて話も出来そうだしね。...心配してくれて、ありがと」
優香は俺の意図も読んだ上で大丈夫だと言う。そんなわけで俺は何故か、入学式の日に元カノと食事をすることになったのだった。
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元カノと高校で再会したらめちゃくちゃ良い女になっていた タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK
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