元カノと高校で再会したらめちゃくちゃ良い女になっていた

タカ 536号機

第1話 元カノと再会する


「おーい、朝日。よっ、おはよう!」

「...おはよう、ナツ」


 高校の入学式の朝、俺がこれから通うことになる学校の門をくぐるとどうやら先に到着していたらしい中学の頃の友人である霧ヶ峰 ナツが、いつものようにハイテンションで声をかけてくる。


「なに、その薄い反応。もしかして、あれか? 琴吹さんじゃなくてガッカリか?」

「違うわ。入学式だってのに一切緊張してる様子がないお前に呆れてるんだよ」


 少し揶揄うような感じでそんなことを口にするナツに俺はため息をつきながら、そう返す。


「そんなことはない。俺だってトランプタワー作る時くらい緊張してる」

「そこそこ緊張してる感じなんだな、意外だ」


 ナツが少し怒ったようにそう返してくるので俺は少し驚く。


「おう、なにせ大事な土台作りだからな手が震えるのなんのって」

「そういうことかよっ」


 すると、ナツが少し額から汗を流しながら後ろに隠していた左手をゆっくりと前へと持ってくると、その左手の上には2つのトランプが三角形を描きお互いを支えあうように立っていた。

 なるほど、確かにトランプタワーを作る時くらい緊張してるのは本当らしい。

 ...驚いて損した気分だ。いや、実際損か。


「でも、これやってみて気づいたんだが中々難易度高くてな、これ以上積めないんだぜ。嘘だと思うなら、朝日もやってみてくれ」

「やる前に気づけ。そして、嘘だとはこれっぽっちも思ってねぇよ」

「あっ、ちなみに言い忘れてたけど朝日と俺クラス違うぞ」

「...そうなのか」


 いつものようにそんな馬鹿なやりとりをしていると、ナツはなんてことないように流れでそんなことを言う。もう、クラス分けを見ていたらしい。


「なんだ、俺とクラスが違って寂しいのか?」

「そりゃお前は数少ない友達だしな。なるべく、同じクラスが良かった」

「...お前、本当に素直になったよな。俺、嬉しいよ」


 ナツが冗談まじりにそんなことを尋ねてくるので、俺がそう答えるとナツは何故かしみじみといった様子でウンウンと頷く。


「なんかお前気持ち悪いぞ」

「ごめん、やっぱ嬉しくないかも」


 素直になったことに喜んでいたので、俺はまたも率直に気持ちを伝えることにした。


「まぁ、なんだ。違うクラスだとしても遊ぼうな」

「というのは嘘で、本当はお前と俺同じクラスなんだけどな」

「ふんっ」

「あ〜、俺のトランプタワーが〜っ」


 わりかし真面目に落ち込んでいたというのに、ナツがニヤニヤと悪い笑みを浮かべてそんなことを言うので少しカチンときた俺が、ナツの左手の上のトランプタワーにデコピンをしてやるとトランプは宙を舞いナツは悲鳴をあげる。

 タチの悪い嘘には罰が妥当だろう。まぁ、そもそもこれをトランプタワーと呼ぶのかは甚だ疑問ではあるが。



 *



 あの後、ナツはもう一度左の上でトランプタワー(2枚のみ)を作るまであの場を離れたくないとかなんとか言い出したので、俺は仕方なくナツを置いて1人教室へと向かっていた。理由は単純で俺まで馬鹿だと思われたくなかったからである。

 あいつはいい奴だし友達だがそのせいで俺まで馬鹿だと思われるのは心外だからな。


「ふぅ」


 そんなこんなで新しい教室へと到着した俺は、ひと息つくとゆっくりと息を吐き緊張をほぐして開いている扉から中へと入る。

 中に入ると、名簿番号ごとに座る席が指定された紙が黒板に貼られている。俺は20番だから...中央の1番後ろの席か。当たり席だな。

 俺は内心ガッツポーズをしつつ、あくまで冷静に席へと向かう。

 すると、俺の席の隣にはもう人が座っていた。どうやら女子らしい。しかも、とびっきりの美少女である。だが、どこか見覚えがあるような...気のせいか?


「あんた朝日...だよね?」

「えっ?」


 そんなことを考えながら席へとついた俺に隣の席の美少女が恐る恐るといった様子で、そんな声をかけてくるので俺は思わず固まる。俺が固まった理由は美少女が俺の名前を何故か知っていたこと...もあるが、美少女の声である。忘れるはずもない、この声は...。


「ゆ、優香か?」

「そう、だけど」


 俺の元カノである真野 優香だ。...まさか、こんなところで再会しようとは。しかも、隣かよっ。

 予想外の出来事に俺が苦々しい気持ちになっていると、優香も少し顔を歪ませる。まぁ、お互いにとってあの時の出来事は闇に葬りたい案件だろうしな。思い出して苦痛を感じるのも無理はないか。


「...正直、私はもう二度と会わないと思ってた」

「俺もだよ」


 すると、優香がボソッとそんなことを漏らすので俺もそれに賛同する。

 にしても、声をかけられるまで全然優香だと気づけなかったな。

 俺が付き合っていた頃の優香は髪は短く寝癖は当たり前、胸のリボンもぐちゃぐちゃでオシャレとは程遠い存在だったのだが...今は、長く綺麗に纏まった髪に、丁寧に結ばれたリボン、更にはどこかいい匂いさえしてくる。

 それに加え、元々整っていた顔も成長してかより綺麗になっており今の彼女には優雅という言葉がよく似合う。

 高校生デビューという奴だろうか? なんにせよ、驚いた。


「なに? さっきからジロジロ見て」


 俺がそんなことを考えていると優香は少し怪訝そうな顔をしながら、そんなことを口にする。


「あっ、いや、綺麗になったなと思ってな」

「えっ?」


 そこで俺が咄嗟にそう返すと優香は酷く驚いたように固まる。...やってしまったかもしれない。あの日以来、俺はなるべく素直に気持ちを伝えることを心掛けて来たがそれが裏目に出たかも。

 絶対に色々と悪口言われるパターンだ、これ。


「.................そう、ありがと」

「えっ?」


 俺は優香から繰り出されるであろう悪口ラッシュに身構えていたのだが、彼女の口から発せられのは予想だにしなかった言葉だった。


 あれ?






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